(とある日、仕事をするべく彼は依頼された場所へと向かう。待ち合わせより少し早く着いて待っていると依頼人の女性が現れた)
「なんのつもりだよ全く⋯」
(会うなり愚痴る彼に女性は呆れたように溜め息をはく)

『あら、お客様に対してなんて口の利き方なのかしら。そんな態度じゃ他に指名されなくてよ?
わざわざ指名して売り上げに貢献してあげているというのに』
「はいはい。ありがとうございます。
貴方以外は普通に対応してるのでご心配なく」
『まあ、差別的だこと。
ほら、依頼料とは別に発生する今回のデート代よ。有り難く受け取るがいいわ』
「わざわざ説明せんでいいわ。
ていうか、どうせアンタのスイーツ代に消えるけどな」
『当然でしょ。私が払うのだから何に使うかは私が決めるわ。デート代も自分で払わない男に文句を言われる覚えはなくってよ』
「そりゃ、そういう仕事だしシステムだからだっつーの。大体な、何で俺がアンタに払わなくちゃ⋯⋯」
(彼が言い終わる前に女性はお目当ての店へと足を先に進める。遠ざかる女性を渋々追い掛けると女性は既に席を取っていた)
「おい!置いてくなよ」
『もたもたしてるからよ。限定スイーツは待ってくれないわ』
(女性は彼の意見も聞かずメニューを注文する)
『飲み物とケーキくらいは恵んであげるから食べていいわよ』
「⋯⋯。アンタを彼女にする男が可哀想だな」
『心配することなんてないわ。男なんて興味ないし、これはあくまでも弟分の様子を見守っているだけだから』
「いや、見守るだけなら別に依頼する必要ないだろ」
『何を言ってるの?ただ見てるだけじゃ面白味もないじゃない』
「⋯⋯次からアンタの依頼断ってやるからな」
『あら、女性と遊べる良い仕事を紹介してあげたのに酷い言い草ね』
「どこがだよ⋯!この間アンタの紹介で俺を指名してきた頭おかしいイカれた女にホテル連れ込まれそうになったわ!」
『あらまあ。
そんなことより、あの子と暮らしているらしいわね』
「俺の苦労を一言で済ますなよ!
⋯⋯まあ、そうだけど、それがなんだよ?」
『あの子はあなたのこと覚えてるの?』
「⋯⋯覚えてる様子はなかったな。
つーか、覚えてても俺だって分かんないだろうな」
『あなた、昔はよくいじめられてピーピー小鳥の様によく泣いていたわねぇ。
私とはぐれて迷子になってた時も無様に泣いていたし、あの子に泣き止むまで慰められてたわ』
「⋯⋯このクソ女」
『あらやだ。もうこんな時間。
用事も済んだしこれでお暇するわ』
(すくっと女性は立ち上がり、さっさと帰っていった)
「⋯⋯」
(彼は会計を済ませ、なんとも言えない気持ちで彼女の家へと帰って行くのだった)