…新入り。

(午後、修行終わりなのだろうセイが珍しく話しかけてきた)
(何の用だろうと近くに駆け寄ると、ふいに体を抱き締められる)
(お風呂上がりなのか、髪は濡れて肌もじっとりと湿気を帯びている)
(突然の出来事にしばらく思考が停止してしまい、セイに話しかけられるまで心臓がバクバクと早鐘を打っていた)
(けれど彼の方はいたって冷静で、いつものように優しく頭を撫でられる)


…俺は今夜、内密に館を出る。
お前を連れて行きたかったが…しばらくはここに留まっていた方が安全だろう。
…達者でな。ツキを、よろしく頼む。

(驚きの発言の途中、今日はエイプリルフール当日ということを思い出す)
(嘘であれば本狐はきっと引き留められると思っているに決まっている)
(だからあえて本音とは逆に「セイこそ元気でね」と笑顔で伝える)
(彼はこちらの反応に少し驚いたようだったが、やがて短く「ああ」とだけ返事をし再び抱き締める力を強めた)














(あの日からずっと、セイは帰ってこない)
(見送る言葉を簡単に述べたことを、今でも酷く後悔している)