(警戒心の強い彼のことだ。どうせ不意打ちを狙ったとしても上手くかわされてしまうだろう)
(それならば取るべき行動は一つ。奇をてらわず正面突破を図るのみ)
(セイから伝授してもらった護身術を応用し、簡単に引き抜かれないよう脇に腕を挟み込む)
(力で引き剥がしたり尻尾などで防いだなら常夜一の体術使いの面目が立たない)
(勝利を確信し手を顔に近付けながら微笑みかけると、彼もまた口角を上げ笑顔を作る)
(……!)

妖気のない場所で常夜一を誘惑とは。さぞ切羽詰まっていたようだな。
だが口寂しさのために体を使うべきじゃあない。
自らの手で自分の価値を下げてしまうのは、あまりにも勿体ない行為だろう?

(彼の指を含もうとしていた口内には、いつの間にか棒付きキャンディがさしこまれていた)
(ただの飴と違い噛み砕いたとしても棒を取るために腕をほどかなければならない)
(やはり常夜一の名は伊達じゃなかった。でも彼は普段から菓子を持ち歩くタイプだっただろうか…?)