(ジユに振り向いてもらおうと思慮した結果、彼と夜を共に過ごしているだろう女性たちの真似をしてみることにした)
(深夜、いかにもワンナイト希望というような露出多めの格好で浅く椅子に腰かける)
(店内に流れるモダンジャズを聞きながら飲み慣れないお酒に口を付け、男性からの声掛けを待つ)
(たまたま運が良かったのか、あまり待たずに男が話しかけてきた)
(相手が人型でなかった場合どういった行為になるかが不安で断ろうかとも思っていたが、隣に座った男であれば問題なさそうだ…)
(今日はひとり?ここの店は初めて?など当たり障りのない会話でさえどもってしまい、上手く笑えているかすらも分からない)
(気を紛らわそうと合間合間にお酒を挟むも、緊張が上回るのかあまり効果は感じられない)
(可愛いねなどとお世辞を言われ少しは嬉しかったけれど、誘われているのだと思うと素直に喜べなかった)
(それでも相手のことを褒めてやらなければと頭も口も回す)
(背中に回された腕は徐々に反対側の腰へとたどり着き、品定めするかのように周囲を摩る)
(タラシになることが"彼"に近付く近道だと分かっていても、全身が総毛立つ感覚は治まらなかった)
(名前も知らない目の前の男が「それじゃあ行こうか」と言って立ち上がる)
(ジユが関係を持ちたいと思うようなイイ女は、ここでどう切り返すのだろう)
(考えている暇があるはずもなく、差し出された手に自分のものを重ね立ち上がる)
(意識ははっきりしているのに足元がすくんで上手く立てない)
(たぶんこれは酔いのせいじゃない。恐怖心からくる震えだ)
(断るなら妖目のある今しかない。けれど自分の方からも誘ったし、最初からこれを望んでいたはず)
(それでも心が目の前にいる男を指先から全身に至るまで拒否している)
(パンク寸前、もはやパンクしきってしまった思考回路は考えることを
放棄してしまっていた)