…(新入りは今日も師匠と夜の街に出掛けたのか。
最後に同衾したのはいつだったかも思い出せないほど、長らく新入りの寝顔を見ていない。
夫婦の契りを交わして半年。
互いに不満なく過ごしていると思っていたのは、俺の勘違いだったらしい。
いや、今思えば諍いごとがないから円満という考えは浅はかだったのだろう。
新入りの好意を無限のものだと思い込み、夫としての努力を欠いていた。
こんな男に愛想が尽きるのは時間の問題だったはずだ。
そもそも新入りの理想の夫とはどういったものなんだろうか。
俺たちの関係は彼女の意向で公表せず生活は何も変わっていない。
本来であれば館を離れ家を持ち、俺が大黒柱となり新入りを養わねばならなかった。
だがユラとの契約がある以上俺は館を離れることはできない。
彼女は理解した上で結婚を望んだ。ひとりの男として惚れてくれたのだと、そう思いたかった。
…師匠は、男の俺からしても魅力的な妖だ。
才能もあり妖望もあり、何よりおとなの余裕というものがある。
世の女性が一夜でもいいからと憧れるような男に、俺が勝てるわけもない。
新入りに限ってよそ見などしないと、どうして今までの俺は安心していられたのだろう。
だからといってこのままでいいわけがない。
新入りの為を思えば別れることも視野に入れなくてはならないが…。
俺はまだお前の傍に居たい、関係を続けていきたいと、伝えるべきだ。
書類上の繋がりすらも失う可能性があるというのは、正直なところ死よりも恐ろしい。
いっそ彼女の素行には目を瞑り、いつか戻ってくると信じ沈黙を貫く選択肢もある。
…以前であればそうしていただろうが、俺たちは夫婦だ。
何より俺はお前を…愛してしまったから。
新入りにとっては俺がこれほどまで自身に執着するなど見込み違いも甚だしいだろう。
失望されても構わない。鬱陶しいと罵られてもいい。
夫婦喧嘩ができるのは、夫婦でいられる間だけだ。
明日の討伐戦から無事帰ることができたら時間を取ろう。
これまで渡しそびれてきた手土産を、今回はしっかりと渡したい…)
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……)