(買い出しの途中、ふいに零れた言葉は、風にさらわれ消えていくはずだった)
(それなのに後ろから肩に手を回し、背中に温もりを与える存在は誰だろう)

??:おじさん、あんころ餅を二つ。

店主:あいよ。毎度あり。

(代金を手渡すために視界の端からぬっと伸びてきた腕は、灰色の服の上からでも分かるほどとても引き締まっていて)
(ずっと会いたいと願っていた彼の腕だった)
(振り向いて顔を見たい。無事かどうかを確認したい)
(それなのに肩をぐっと押さえられ、首を最大限捻ってもフードの端しか映らない)
(そうこうしているうちに店主が餅を差し出してきて、動かない彼に代わって商品を受け取る)

店主:ありゃ、あんちゃんが消えちまった。

(驚いている店主の声を聞いて、ようやく温もりが消えていることに気付く)
(辺りを見回してもそれらしき妖は居ない)
(手の中にある二つの餅は、ふたり分ということではなかったのか)
(何度も瞬きをして涙を堪え、寂しさの中饅頭屋を後にした)

一緒に食べたかったな…