12歳の時、夜中にトイレで目が覚めました。廊下の先にあるトイレに行き、電気をつけ、トイレのフタを開けようとした時、鏡の中に人の顔が見えました。

私の顔じゃありません。鏡の向こう側に人が立ってこちらを見ていたんです。一瞬のことでしたが、じっと私を見つめたその顔がしっかり目に焼きつきました。

ぎゃーっと叫んで、父親の部屋へ。父がトイレを確認して、何もなかったよ、大丈夫だよと慰めてくれました。怖がる私のために一緒にお祈りもしてくれました。

時は流れ30代になった私。鏡の中の人のことはすっかり忘れていました。ある日、帰省した私に、ふと父が「鏡の中の人、覚えてる?」とあの時のことを持ち出しました。

あの顔を思い出しゾワっとしながら、覚えてるよと言うと、父はこう告白しました。

「実は、お父さんも見たんだよね」

私が鏡の中に人がいたと泣きじゃくる中、トイレに確認に行った父も、同じく鏡の中からこちらを見つめる人を見たそうです。

あの時、私を落ち着かせるためのお祈りは、父自身が落ち着くためでもあったのです。

私が大人になるまで言わずにいてくれてよかったと思う反面、一生秘密にして欲しかったとも思います。怖いよう…。













鏡の中の人