深夜のハイウェイを走っている僕の車の助手席では、一人の美しい女性が寝息を立てている。

彼女とは、つい1時間前に出会ったばかり。

夜遅くにヒッチハイクしている、彼女を見過ごすことが出来なかった。

「君はニュースを見ないのかい?ついこの前もヒッチハイクをしていた女性が殺されたって、盛んに報じられていたじゃないか」

「そうなんですね。でも、その娘は運が悪かっただけじゃないですか?私は大丈夫。あなたのような優しそうな人の車に乗せてもらえたんだからね」

そんな話をしているうちに、気付けば彼女は寝てしまっていた。

ヒッチハイクで州を横断して親戚の家を目指しているそうで、笑顔をみせていたが、とても疲れているようだった。

薄茶色の長い髪は彼女の寝顔を半分隠し、街頭に照らされキラキラと光っている。

何か楽しい夢を見ているのか、時折口元が微笑むのを見ていると…

僕の体の奥底から、悪魔が唸り声を上げたかのような恐ろしい気配を感じた。

途端に息苦しくなり、額に汗が浮かぶ。

長い間、自分でも忘れていた最悪の前兆は、既に僕の体を内側からブチ破らんばかりで、叫び声を上げそうになるほどだ。

きっと、今の悪魔のような顔をした僕を見たら、彼女は恐怖したに違いない。

つい先程出会ったばかりだが、彼女のような未来のある女性に危害を加えるわけにはいかない。

僕は歯を食いしばりながら路肩に車を止める…

しかし遅かった。

次の瞬間、車内へ鈍い音が響き渡った。

やってしまった…

僕は自分をコントロール出来なかった事を悔やんで、涙が零れ落ちそうになった…

ふと視線を感じて助手席の方を見ると、さっきまで笑顔を浮かべながら寝ていた彼女が、僕を睨みつけていた。

「頼む、理由を聞いて聞いてくれないか…」

そう言い終わる前に、彼女は荷物を持って車を出ると、ドアガラス越しに鼻をツマミながら僕に向かって中指を立てた…












悪魔の気配