(すっかり冷めてしまったお茶の入ったカップ。それを両端に置いたテーブルを間に挟んで自分と聞川真は笑顔もなく向き合っていた。笑顔など出せる余裕もない、というのが正確だった)

(ここに至る過程を順を追って整理すると、まず自分の状況を改めて説明した)

(にわかには信じ難いかもしれないが自分は記憶を失っており、聞川真だけでなく他の人のことまですっかり忘れてしまったこと。ただし一般常識は残ったままだったため、会話等を行うことに何の問題もないことなどを)

(聞川真はそれを妙にあっさりと信じた。思わずこちらが不安になってしまうほどに)

(本当に?本当にいいのだろうか。確かに信じてもらえることはありがたい。が、聞川真には自分の言葉が嘘か誠の判断できないはずだ。それなのにそんな簡単に信じると言ってもいいのだろうか)

(と、そのようなことをあたふたと伝えてみたところ、聞川真は僅かに目を見張った後、寂しげに微笑んで頷いたのだ。信じるよ、と)

(妙に釈然としない感覚は覚えたものの、それはそのまま飲み込んで代わりに別の言葉を口にした。今度は聞川真のことを教えて欲しい、と)

(そこで、重い沈黙が流れた)

(目の前の聞川真は、何かを迷っているようだった。視線をテーブルの上に固定したまま、唇を引き結んでいた)

(一体何を躊躇っているのか分からなかったものの、変にせっつくことも出来ずにそのまま彼が口を開いてくれることを待ち続けたのだ)

(やがて、どのくらい沈黙が流れたか。いよいよ彼が薄らと唇を開いたのである)

(そしてその唇が紡ぎ出したのはーー)


(自分のこと以上に、にわかには信じがたい話だった)
(わりあい普通の話だった)
記憶喪失バッドエンド:冷めたお茶