(いつものようにノブを捻る。ガチャンと地味に大きな音が夜闇に響く。が、玄関扉は開かなかった)
(そこでハッとする。そういえば今日も家族は皆いないのだと。つまりは仕事から疲れて帰ってきた自分を出迎えてくれる家族もご飯も温かなお風呂もないのだと)
(なんということだ…)
(まずはあれをしてこれをしてと、疲れでぼんやりとする頭を働かせつつ鞄を漁って鍵を探す。が、なかなか鍵が見つからない)
(玄関前でもたもたとそんなことをしていた時だった)
(カチャンと小さな音が辺りに響く。自分の立てた音ではない)
(音のした方向へと反射的に顔を向けると、ちょうど隣のドアが開くところだった)
(そこからひょこりと顔を覗かせたのは、昔から隣に暮らしている年下の男の子ーー
真くんだ)

◯◯さん
(こちらの顔を見るなりパッと表情を明るくさせた彼は小走りでこちらへと駆け寄ってくる。その手にあるのは重ねられたタッパーだ)
おかえりなさい、◯◯さん
これ、よければどうぞ
(差し出された二つのタッパーを受け取る。存外それはずしりと重い)
…一昨日、電話で話した時に言ってたじゃないですか
3日くらい家族が家を空けるから、ご飯なんかの支度も全部自分でしないといけないのが面倒だって
えっと…ご迷惑かなとも思ったんですけど…晩御飯と、明日の朝ご飯を…
(なんと真くんは自分の為にわざわざご飯を用意してくれたらしい。それも晩御飯だけじゃなく朝食まで)
ありがとう