(小学2年の時に隣に越してきてからの付き合いである田中壱郎というこの男は、その言葉の通り昔から弱みらしい弱みというものを見せないやつだった)
(以前は本人曰くど田舎暮らしだったらしく虫なども平気。暗がりだって平気。ホラーなんて逆に笑って見るほどだし、先生に怒られたところでけろりとしている)
(そりゃああれが嫌これが嫌と口にすることはありはしたが、それを「弱み」と言うには田中の言葉はどこか軽かった)
(ただ、そんな田中が唯一様子がおかしくなる時があった)
(雷雨ーー雷が鳴っている時だ)
(とはいえ、その変化はあまりにも細やかなもの。何しろ明らかに怖がっているとか怯えているとか、そういう分かりやすい反応があるわけではないのだ。だからこそ、初めのうちは全く気付かなかった)
(ただそう、なんとなく。なんとなく、雷が鳴っている時は普段よりも雰囲気がピリピリとしている、ような気がする)
(自分の勘違いか、それとも勘違いではないのか。付き合いを重ねた自分ですらその判断に迷うほどの微妙な変化しか見せない田中に、以前好奇心から尋ねてみたことがある。ーー雷が怖いのか、と)
(対して、驚いたように一瞬目を見張った田中は普段よりもやけに淡々とした調子でこう答えたのだ)
(ただ嫌いなだけだ、と)
(その後気を取り直したように「雷如きが怖いわけねぇだろうが」とヘラヘラとし始めてしまったため、結局それ以上追求することは出来なかった)
(だけど自分には、それがこの男が唯一見せた弱みらしい弱みだったように思えたのだ)
◎田中の弱み