(明け方近くの最も昏い時、さすがに彼女も休んでいるだろうとこっそり部屋に忍び込んだ)
(部屋の床は描きかけだったり、描き上がったり、真っ白だったりするキャンバス、
絵の具に素描の用紙だらけでまるで足の踏み場がない。
隅の方で、キャンバスを抱えて眠っているゴッホを見つけた…)
(近くに寄ってよく見てみれば絵の具まみれだ。赤に緑、黄色に青。
相反する色は、服に顔に髪に手に──手に目をやったところで、ようやく彼女が何かを呟いていることに気づいた)
どうして……どうして、きれいにならないのでしょうか、この手は…も……もういやだ……ウフフ…まだ血の臭いがする。
この小さな手……どれだけ、塗り重ねても、塗り潰せない、きれいにならない……!
エヘヘ、ヘヘ……エヘヘへへ……!!
(ぼんやり眺めていると、なんとおもむろにパレット用のナイフを掴み自身の手に振りかぶった!
なんとか阻止しないと!)