(これは、物語が始まる
少し前の話である)

(父に連れられ
城へやって来た私は
何となく落ち着かなくて
父の用が済むまでと
とりあえず目についた
庭に行ってみる
ことにした
柔らかな日差しの中
小鳥達の囀りを
聞きながら
木の上から
こちらを見る栗鼠に
頬を緩ませる
平和だなあ
なんて思いながら
歩いていた
…それがいけなかった)

(突然、足元に現れた
猫に驚き
私は、バランスを崩して
地面に尻もちをつく
その時に
手を擦りむいてしまった
…あぁ…
ついてないなぁ…
申し訳なさそうに?
こちらを見る猫に
大丈夫、と笑いかける
これくらいであれば
治癒魔法で
治せるから、と
…その時だった)
「…貴女は?」(不思議そうな声と共に
優しげな表情をした
青年が現れたのは
青年は、私の方へ
歩いてくると
私の手を見て、
優しく微笑んだ)
「あぁ…
怪我をしているのか…
うちの芝と猫が
申し訳ない」(うちの芝と猫が
申し訳ない???
あまり聞く事のない
ワードに
ぽかんとする私を
青年は、
失礼、と言って
立ち上がらせる
そして、そのまま
傷に治癒魔法を
かけてくれた
みるみるうちに
治っていく傷に
お礼を言えば
当然の事をしたまで
と、
ハンカチを差し出された)
「嫌でなければ
使ってほしい
返却は不要だ」(あ、ありがとう…
お礼を言って
ハンカチを受け取る
そして、軽く
芝や土を払いながら
自分の名前を名乗り
城に来た理由と共に
ここにいた理由を話し
次に来た時に返すので
名前を教えてほしい
と口にした
……………
…時間が止まった)
「──」(ぽかんとする青年に
何かマズい事を
聞いたかな?
と不安になる
しかし、青年は
しばしの間があってから
少しだけ
困ったように
ゲン・ティアーズ
と口にした)
(やらかした、と
瞬時に気がついた
ゲン・ティアーズ
即ち、この方は…
ここの…この国の…
ダフネの、
次期王である
という事で…
申し訳ございません!
とんだご無礼を!
そう叫びながら
光の速さで
ジャンピング
土下座をかます
一瞬、王子は怯むも
気にする事はない
頭を上げてほしい
と言って、
手を差し伸べてくれる
ですが!と私は
地面にめり込む勢いで
土下座をし続ける
しばし、
やり取りを繰り返し
やがて、
王子が慌てながら
ごめ…すまない!と
私を立ち上がらせた)
「知らなかったのだから
仕方がない
…私は、父程
威厳もないから…」(そんな事は…
そう言いかけて
改めて彼を見る
……ある、かも……
しれない…
目をそらしながら
そう言えば
わかっている…
と、少し
しょんぼりしてしまった)
「…だが
貴女は正直だな……」(ごめんなさい…)
「いや…
むしろ嬉しいんだ…
…他の人間達は
どうしても気を遣って
本当の事を言っては
くれないから…」(困ったようにそう言って
笑う王子に
色々あるんだなぁ、と
私は思う
それと同時に
少しだけ、
彼が寂しそうに見えた)
「…そういえば
先程、次に来た時に
と言っていたが…
此処へは
頻繁に来ているの
だろうか」(そうですね
父に連れられて
そう言った私に
そうか、と王子)
「…申し訳ない
私はまだまだ
知らない事だらけだな…」(いいえ、
お気になさらず
そう、
私が言った時だった
遠くから
父が私を探すのが
見えたのは
どうやら
用事は済んだらしい)
「あれは…
…そうか
君はギルド団長の……」(納得したように
そう言って
王子は、
では、と口にする
ギルド団長殿に
よろしくと伝えてほしい
そう言われて
わかりました、と
頭を下げる
それでは、
失礼いたします、と
それで、
その日は終わった)