大通りから切り離されたような暗さにたじろぐものの、今更引き返すという選択肢はない。一度は止まりかけた足を、そっと進める。
大丈夫、大丈夫。別にお化けがいる訳じゃないし。いやお化けが怖いとかじゃないけど。うん。

誰に向けるでもない言い訳を並べながら進む鼻先に、チリチリとした焦げ臭さが揺らぐ。
途端に思い出すのはボヤ騒ぎの記憶。でも、あれは一時間近く前の話で、ここよりは少し離れた場所でのことで。

無意識の好奇心に背中を押され、先程よりも覚束ない足がそれでも進む。進んで、さも落とし物であるかのような白い塊が目に入った。

白い塊。白い服。路地に座り込むようにしている人影。煤の黒さがなければ高貴さを放っていただろう服の裾は焦げ、ほつれ、その手足は力なく放られている。
表情を窺おうにも黄と紫のツートンカラーの髪で覆われていて、そっと近付けば焦げ臭さの隙間に鉄臭さが混じった。鉄。赤。襟元の渇きかけた茶色。

非現実的だった人影が怪我をし気絶した人間のそれだと気付いた瞬間、初めて重力を知ったかのように四肢に重みが掛かる。膝をついた。引きずられるように血の気も退いて、喉が震えて。

「きゅうきゅうしゃ……」

あ、そうだ、救急車、呼ばなきゃ。
救急車呼んで、人がいます。怪我した人が。助けてくださいって──




行きはよいよい?