「よぶな」
掠れた声だった。男の声だった。
掠れているのに余りに澄んでいるから、それが目の前の怪我人から出ていると気付けなくて、動けなくて。
「ひとは、よぶな……たのむ」
「いや、でも、怪我」
「病院…は、だめ…だ……かおを合わせ、られない」
気絶はしていなかったのか、なんて呟いたのは変に冷静になってしまった私の一部で、それでも慌てたままの私の大部分が携帯を握り締める。
119はもう打ち込んであって、あとはコールボタンを押すだけなのに、そんな、縋るみたいな声を掛けられたら。
「おれは……おれ、はあんな……」
ぽつり、ぽつり。うわごとのように、掠れた声は途切れ途切れに発せられる。
その殆どは理解出来なかったけれど、だからといって火事に巻き込まれたかもしれない人を、怪我を負って動けない人間を見て見ぬふりなんて出来ない。
だったら。
「……、…」
私が顔を上げるのと同時に最後に何かを呟いて、その首がことり力を失う。血で固まった幾房の前髪もそれにつられて動き、想像していたより幼い顔と、襟よりもまだ赤い右顔面が露になった。
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誰だか分からないけれど、放っておけない>
確か、全国大会出場者の……とにかく助けなきゃ(ちょっとした分岐ですが、大筋には関わりありません)