名前:監督生

異世界に飛ばされて13日目



(ぐい、)
(近づいてきたエースに肩を掴まれ、くるりと後ろを向けられる。)
(そのまま背後から抱きしめられ、肩口に顔を埋められた。)

(え、エースどうしたの……?)
(よしよし、寂しくなっちゃった?)

……そんなんじゃないし。
もっとさ、ご飯とかじゃなくて別のお代がいい。

(えー、何がいいのさ。)
(オンボロ寮の監督生、1時間貸し出しとかがいい?)

……うん。


(え、そんなんでいいの?)

(後ろを振り返ろうとすると、抱きしめられている腕にぎゅっ、と力を入れて止められる。)
(仕方がないから、首筋にぐりぐりと押し付けられる頭を後ろ手で軽く撫でた。)

……監督生はさ、普通にいいヤツだし一緒にいても楽しいしさ。
人気があるのも分かってる。

でも、1番最初に仲良くなったのはオレじゃん?
だからちょっと、おもしろくないっていうか……。

(うん、)

交流パーティーもさ、正直やりたくない。
何でこれ以上交流増やさないといけないわけ?
これ以上人気出たらどうすんだよ。

(……うん、)
(それでもさ、エースは1番の友達だよ。)


……オレは、

(漸くぎゅうぎゅうと抱きしめられていた腕から解放され、エースと向かい合う。)
(間近で見たエースは、今までに見たことが無いような真剣な顔をしていて、瞳は何かを耐えるように細められていて思わず息を飲んだ。)

(ざり、と少し固くなったエースの親指が頬を撫でる。)


(え、エー…んむ、)

(何を言えばいいのかも分からなくて、エースの名前を呼ぼうとしたけど、それは音になる前に急に近付いてきたエースの唇に飲み込まれた。)
(生暖かい吐息と柔らかい感触が離れていって、1拍置いてからあ、キスされた、と理解する。)

(えっ!?エース、今、)

……目閉じて。ユウ。

(そう言うと私の腰に右腕を回して、もう片方の手で私の目を覆った。)
(真っ暗になった視界は、頬を撫でるエースの髪や間近で感じる吐息を余計に鮮明に私に伝えてくる。)

(ちゅ、ちゅ、と啄むように何度か口付けられ、少しの時間を置いて名残惜しそうに離れていく。)


ごめん。ヤキモチ妬いた。
オレ、これから先もユウの1番は譲るつもりは無いから。
……友達としても、男としても。

これからはそういう風に見てよ。


パーティー成功するといいね。
オレも手伝うからさ。
ま、ちゃんと監督生の1時間は貰うけど!
言質も取ったし?

(じゃあまたねとヒラヒラと手を振って出て行くエースを、呆然と見送った。)
(回らない頭が時間をかけて言われたことを理解するのと同時に、ジワジワと顔が熱くなってくる。)

(1時間、いや、明日からどうやって顔を合わせよう……、)

(火照った頬を両手で抑えて、私はソファの上に転がった。)


それでもいいけどさー、