名前:監督生

異世界に飛ばされて13日目


(きゅ、と服の袖を掴まれる。)
(見上げると、こちらを覗き込んでいる先輩と目が合った。)
(する、と先輩の細くて長い指が私の頬を撫でて、こぼれた髪を耳にかけられる。)

……あなたのその交友の広さには、少し妬いてしまいますね。

(? )

あなたにとって、数多くの先輩の中の1人でしかない僕は、どうすればあなたの特別になれるのでしょう。
……あなたの為なら、どんな不可能な望みでも叶えて差し上げるというのに。

ねぇ、教えていただけますか?
どんな対価を払えば、あなたを僕のものに出来るのでしょうか。

(えっと、先輩。それはどういう……)

……、そうやって誤魔化すのですね。
本当は分かっているくせに、ずるい人だ。

(ぐい、と引き寄せられ、困惑して先輩の顔を見つめると、アズール先輩の整った顔が近づいてくる。)
(えっ、ちょ、待ってせんぱ……!)

……待ちませんよ。僕は、今まで充分待ちましたから。

(カチャリと先輩が眼鏡を外すと同時に、先輩の薄い唇が私の口を塞いだ。)

(ん……、ふっ、)

(角度を変えながら、何度も口付けられる。)
(ちゅ、ちゅと啄むだけのキスなのに、頭がくらくらとして無意識に先輩の胸にすがりついた。)


ん……、どうでしょう。
これで、少しは意識してもらえますか?

もう誤魔化されてはあげませんよ。
……大人しく認めて、僕の手を取ってください。

他の人よりも、僕を見て。


ふふ。考える時間くらい差し上げますよ。
……まぁ、あなたのその惚けた顔を見ていれば、答えは分かっているようなものですが。


僕が協力すると言ったんです。
交流パーティー、成功させて下さいね。

……答えはその後でお聞きします。


(私の耳に口を寄せて呟くと、先輩は私に背を向けてVIPルームから出ていった。)
(背を向ける直前に見た、不安そうに揺れる瞳に思わず笑みを零す。)

(今すぐに追いかけて、その愛おしい背中に抱き着きたい。)
(そうしたら、先輩は笑ってくれるかな。)
(努力家で強がりで、不器用な人。)

(どんな風に返事をしようと考えを巡らせながら、私はVIPルームのソファの背に寄りかかった。)

……ただ、