『
きみに、頼みたい事があるんだ』
(そこは、黒い空間だった)『
……突然、こんなことになってしまって申し訳ないけれど……』
(上もなく、下もなく、前も後ろもなく)『
──あぁ、ありがとう。本当に……』
(ただ、黒だけが広がる空間)『
……ねぇ、このことは覚えておいて』
『
きみは、あの町で起こり得る全てを知っている』
『
きみは、あの町で起こり得ることを経験していない』
(そんな空間の中、鼓膜を震わせない声が、静かに響いていた)『
……さぁ、そろそろ時間だ』
(ふわり、風のない空間に風が吹いた)
(そこにないはずの自分の髪が、確かに揺れて)『
一つだけ、気を付けて』
『
ひとりの人が影響を及ぼせる範囲はそう広くない』
『
それが一年ともなると、少し分からないけれど』
(くるり、黒に染められている視界が回った)
(ここにないはずの自分の体が、確かに揺れて)『
……あなたが正しい道を進めるよう、私は──』
(声が遠退いていくのに合わせて、意識も更に深く沈んでいく……)→
平らな坂道を下れ