(通り掛かった公園で、ふいに"バシャッ"と水が零れるような音が聞こえ あなたはそちらを見遣った。
すると、女性が某コーヒーショップのロゴの付いたカップを落としてしまったようで 地面に広がるシミを呆然と眺めている…
その向かいには、見間違えるはずの無い いつもの白いパーカーと赤いジャケットを羽織った一郎が、どこか悲しげな表情で女性を真っすぐに見ていた)

……俺を好きになってくれて、…好きだって言ってくれて、ありがとうございます。
…けど、俺は 弟たちが一人前になるまで、無責任に誰かと付き合ったりは出来ないんです。
情けねぇンすけど、俺はそこまで器用じゃねぇから……きっと、俺の力が足りないばかりに 傷付けて、悲しい思いをさせる。
(そこで女性は初めて顔を上げ、涙に濡れた瞳で縋り付くように "それでも構わない"と告げた…
…一郎は、一層悲しそうに顔を歪めている)
……俺は、俺のせいで 人を傷付けたくないんです。
ごめんなさい。
…ありがとう、ございました。
(深く頭を下げる一郎に、女性は泣きながら走り去って行った……
……やがて、女性の姿が見えなくなると ゆっくりと顔を上げ、女性の去って行った方向を見つめている)
………。
(深く息を吐くと、無残な姿になったカップを拾い上げゴミ箱に投げ捨てた…
そのまま重い足取りでベンチに腰を下ろすと、両手を組み、ジッと地面を見つめている。…その姿はどこか寂しそうにも見える)