……じゃあ、このまま気が済むまで じろ兄と遊び歩くか?
俺は構わないぜ。
一日ぐらい学校サボったって構わねぇし、24時間営業の暇潰せる店もたくさん知ってるし。
(カップの中からは温かそうな湯気が立ち上っている…)
…けど、そういうことじゃねぇんだろ。
口では"帰りたくない"なんて言いながら、今すぐ帰りてぇって顔してるし。
……何でケンカしたのかとか、理由も何も分かんねぇけど…兄ちゃんも今ごろ後悔し始めてんじゃねぇかなー…
…兄ちゃんを庇うとか、そういう訳じゃねぇけどさ
兄ちゃんは俺たちの兄貴で、親で、同時に"山田一郎"でもある訳じゃん?
けど、そういう前にもちろん人間だから たまにはどうしようもなく疲れたり、やるせねぇ時だってあると思うんだよな。
一回兄ちゃんとでけぇケンカした時はそれが分かンなくて、今だから思うんだけど……兄ちゃんとケンカ出来たのって、すげぇ幸せなことだったんじゃねぇかな。
…いや、変な意味じゃねぇよ!?
(あなたの訝し気な視線に二郎は慌てて否定したあと、柔らかく微笑んだ…)
……本音をさ、言ってくれたんだなって。
俺とケンカした時も兄ちゃん相当キれてて、もう一周回って怖ぇぐらい静かだったんだけど…それでも"出てけ"とか、俺を傷つけるような事は一切言わなくて。
…それでも、「"兄ちゃん"は疲れた」って言われとき……ずい分後になって、あれが本音だったんだって なんか嬉しくなってさ。
ケンカして嬉しいってのも可笑しいけど、兄ちゃんはそういう事が無きゃ 「疲れた」とか「しんどい」とか言わねぇし……
でも、同時に それを言わせちまったんだなっていう罪悪感もあったりしてさ
……あン時は、しばらく兄ちゃんと顔合わせづらかったなー…
(カップの中を覗き見るように二郎は俯いた…)
…で、飯はどーする?
……今日は、お前の好物らしいけど。
(二郎がテーブルの下からスマホを取り出し、会話画面を見せる…どうやら一郎との会話のようだ……
"〇〇の好きなモン作ったけどこのまま家に帰って来てくれなかったらどうしよう"・"兄貴として失格だ"・"幻滅された"・"もう無理"・"苔になる"などの一郎らしからない言葉が並んでいる…。)
このまま放って置いたら、兄ちゃん苔になっちまうぞ?
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▽帰って謝る!(じわりと涙を滲ませながら)