剣士が歩き始めて暫くすると、対向から一人の子供がこちらに歩いてくるのが見えた。─もっともその子供は角と翼と尻尾の生えた奇妙な姿をしていたが─
剣士は驚いたものの背に腹は変えられない。声をかけてみることにした。
「あ、君。すまないが…」
「え?は、はい。なんでしょうか?」
突然の呼び掛けに少し驚いたがつとめて冷静かつ丁寧に答える。
「私は……ええと、最近この辺りに引っ越してきたんだが慣れない土地でどうも迷子になってしまったらしい。それでその…申し訳ないんだがどこか…領主のいるような場所に案内をしてもらえないだろうか」
「りょうしゅ……?ボクはこれからアオイ様のところへ行くんですけど……どの辺に引っ越してきたんですか?住所とか」
「……すまない、それも覚えてないんだ。何しろ急な事で……」
「そうですか……困りましたね」
そこまで答えて自分も少し困惑してしまった。
自分はこれから用事があるので他の事に時間をかけたくは無い。
しかし迷子になって困っている人を見捨てる事も出来ない。
「うーん……あ!そうだ、じゃあボクと一緒にアオイ様のところへ行けば何か分かるかもしれません。アオイ様はこの辺りを治める大賢者様です。きっと力になってくれると思います」
「そ、そうなのか!ありがとう。是非ついて行かせて欲しい…助かった…
……そうだ、私の名はヘレネ。ヘレネ・ヴァレンタインという。君は?」
「ボクは優。優っていいます、ヘレネさん」
「そうか、じゃあ優くん…よろしく頼む」
「優でいいですよ。ボク、君付けされるの苦手です。じゃあ、一緒に行きましょう」
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「…………なるほど、つまり優はご両親の手がかりを得るためにアオイという人物に会うと。そういう事なのか」
「はい。アオイ様に今まで先生から教えてもらった魔法を見せてボクの力を証明出来ればきっと鍵を貸してくれる…先生はそう言ってました」
「ご両親に会う…上手くいくと良いな。そうだ、私にも手伝える事があれば言ってくれ、御礼もしたい」
「ありがとうございます。でもこれはボクの力でやってみたいんです。その為にこれまで勉強してたし……
……あ、そろそろアオイ様のところへ着きます。ヘレネさんはここで待っててください。ボクが話をしてくるので」
「わ、分かった。待たせてもらう」
自分の事を人に任せ切りにするのは抵抗があったものの、まずは優の目的を果たすのが先だろう。ヘレネはそう判断し待機する事にした。
優がアオイの拠点に着くと一人の少年が立っていた。赤い服に身を包んだ門番のようだ。
少年は優を一瞥する。
「シャルロットの過去4」