そこには、深夜にも関わらず外で喫煙をする一人の人物がいた。
遠くからでも干渉してくる程の魔力の発生源にして、あたし達─あたしとゆに子の─の保護者をしていた、人。
師匠がそこにいた。
師匠はこちらを見ると、ふうと長く息をついて煙を出したあと「これだけ魔力を貴方に向けて飛ばしていればさすがに感知して来ると思ったけど」
少し間を置いたあと、師匠は
「それでもこんな時間に一人歩き?若い子が危ないわね」と説教をかまし、また煙草を吸い始めた。
「……誰のせいですか。それに師匠こそ、そんなに魔力を出してていいんですか?病み上がりでしょ。あと、今は外もロジョー喫煙がどうのって煩いんで気をつけてくださいね」
あたしからの問いに答えるようにまたふう、と煙を吐き出す師匠。
「あたしの魔力の心配をするなんて随分強くなったわね。嬉しいじゃない。ま、そんな愛弟子の忠告に免じて……これはもういいわね 」
師匠がパチンと指を鳴らすとふいに、頭を刺していた頭痛が消えた。
思考が少しだけクリアになった、気がした。
師匠が身体をこちらに向き直ってくる。
「それより随分久しぶりね。何年ぶりかしら?貴方もヘレネさんも見込み以上だったし……復活するまでだいぶ時間がかかってしまったわ。それでも全然、本調子ではないけれど」
いつの間にか火の消えた煙草を携帯灰皿に押し込み、ポケットにしまう。
まるでなんてことの無い日常のような所作をするが。
あたしは、一つ気になったことを聞いてみた。
「師匠、あたしを……その、やっぱり」
師匠はあたしが言い終わらないうちに遮る。
「貴方とヘレネさんのした事を、気に病む事は全くないわ。貴方も私もヘレネさんも、自分のやりたいようにやっただけよ。少なくとも私はそう。
……貴方も私も、過去は変えられないのよ」
それにね、と言って師匠が近づく。
びくん、と無意識に身体に力が入る。警戒してしまう。
「あの時のことも、嘘ではないのよ。もっとも、ああでもしなければ貴方は本気を出すと思えなかった、というのもほんの少しはあるけど」
わずかに口角を上げた口元の顔を、少し近づけてくる。
あたしは少しだけ後ずさりをしてしまう。
そんなあたしを見て、師匠は意地悪く微笑んだ。
「……さて、もう帰るわね。まだあたしも本調子ではないし─貴方も気をつけて帰りなさい。じゃあね」
そう言うと、あたしの目の前からゆっくりと消えていった。まるで、そこに何もいなかったように。
…………やれやれ。色々と気が重くなりそうだ。
つーか、ああやって消えられるんだからそのうちこっちのアパートにも来るんだろうな。
今後の事と帰路までの事を考え、あたしはため息をついた。
END
「………………やっぱり」