山奥の獣道を進む炭治郎の足取りは重く、兄の背中を追う禰豆子は周囲を警戒しながらもどこか心配そうに眉を下げている。
近くに民家でもあれば良かったんだけど……ごめんな、禰豆子。早朝の濃霧で出立が大幅に遅れ、ぬかるんだ地面が炭治郎達の行く手を阻む。
夕刻にはこの山中を通過している算段を立てていた炭治郎は禰豆子に気付かれないよう、小さく嘆息をついた。
目を凝らせど民家の灯は見えず、いよいよ野宿しかないと腹を括った炭治郎の頬にぴちゃり、と何かが落ちた。
……禰豆子!月を背負い飛び出してきた鬼を視認するまで、いつになく時間がかかった。
ひとまず禰豆子だけでもどうにかしなくてはと咄嗟に名を叫んだ炭治郎の手がだらりと垂れ、両足が地面に縫い付けられる。
じゃ、ま……。鬼の鋭利な爪が炭治郎を抉るよりも早く殊更強い血の香りが、炭治郎達を包む。
突如重くなった体に鞭を打ちなんとか頭を上げた先にあったのは赤い菱形の何かが鬼の頸を掻っ切り、再生を始めた鬼の体に馬乗りになった妹ではない第三者。
骨を砕き、肉を割く音を間近に聞いているのに炭治郎は現状を全く把握出来ず、体もまた動かせずにいた。
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