……何も聞かないんだな。

少し前に食べ終えた玄弥君は最初、訝しむような目を向けていたが急に視線を外すと囁くような声量で吐き捨てた。

彼が話した事すら無い私を気にかけてくれたのは、きっと炭治郎から話を聞いて存在を知ってくれていたから。
同時に私も炭治郎から玄弥君と兄である風柱様の件は聞いているし、顔を合わせた時に名字を名乗らないという事は彼なりに何か思う所があってだろうと判断して、言葉にしなかっただけ。

(玄弥君は玄弥君だからね)

(炭治郎と似た者同士か)
君は要らねェ。俺も名前で呼ぶ……またな〇〇。


てんてこ舞いな店内を割いていく玄弥と、またちゃんと話せたら良いなと思いながら席を立つ。
お勘定お願いしますと女将さんに言うと、首を傾げられてしまった。

代金ならあんたのお連れさんからもう貰ってるよ。

(後日、必ず玄弥を捕まえてお礼をしようと強く決めた瞬間である)
炭治郎の知人は変わった奴が多い