窓際から見える月が満ちては欠けていくのを見るだけが、私の心の安寧になっていた。
随分と長い期間この部屋に囚われ続けている私の頭からは時間という概念が消し飛び、毎日やってくる夜を恐れるようになっていた。


(綺麗な満月だ)

私が此処に来た時はあの月はどんな形で、この空のどの辺りに居たのだろう。
今日も今日とてあの鬼が満足するまで蹂躙され、ひと息つけるようになったのは満月が高い位置に君臨してからだった。

何度されても慣れないそれを体内から掻き出し、すっかり汚れてしまった隊服に縋る思いで手を伸ばす。
──傍らの刃を掴もうという気力は、とうに折れてしまっていた。

今日は〇〇ちゃんに贈り物があるんだ。

あまりにも鬼が私の名を知りたがり手酷くするものだから、うっかり口を滑らせてしまったのが運の尽きだ。
絶対にこの鬼の呼び声に反応してやるものかと背中を向けて無反応を決め込んでいる私の事など一切気にせず、話を続ける鬼が忌まわしい。

あはは、釣れないな。そんな〇〇ちゃんだから落とし甲斐があるんだけど。

奪われる唇と、舌。
器官を通り体内に入り込んでくる、血液。
鬼殺隊として任務に励んでいる時なら、腰に回されている手を振り払って距離を──。

無惨様の血は美味しい?
良かったね〇〇ちゃん。これに順応出来れば君も俺と仲間──鬼だ。


(ふ、ざけ……るな!!鬼に成り果てるくらいなら死んでやる!)

そう言うと思った。だけどもう遅い。

本能が、全身が、それだけは嫌だと悲鳴をあげる。
鬼になんて、なりたくない。
どういう結末であれ人間としてこの世界から去れるなら幸せだと譲歩し、それ以外の全てを諦めていたのにこの外道は私のそんなささやかな願いさえ踏み躙るのか!!

時間は掛かるだろうけど大丈夫。
〇〇ちゃんなら凄い鬼になれるから頑張ろうな。


強制鬼化1