(いつも以上に表情が険しい炭治郎に名を呼ばれて駆け寄ると、いつの間にか壁際まで追い詰められてしまった。
後ろの壁に手を置いた炭治郎がゆっくりと顔を上げる──距離が、近い!)
〇〇を束縛する権利は、俺にはないけど今のあれはどうかと思うな。
(ごめんなさい……)
それなりに見知った隊員から呼び出され、人通りの少ない場所で性急に距離を詰められた私は離れようと必死に抵抗した。
それを容易く往なした男性隊員が隊服に手をかけた時、ひょっこり顔を見せた炭治郎によって九死に一生を得た……と思っていた。
あの炭治郎を怒らせている事実にどうすればこの場を諌められるかという考えよりも先に、特別な感情を抱いてない"男性隊員と二人きりで居る"ところを炭治郎に見られてしまったのがとてつもなく嫌で言葉が詰まる。
……誰かの元に嫁いで、赤子が居てもおかしくない齢なんだ。
力づくで奪われた後じゃ遅いし、悲しみに暮れる〇〇を俺も見たくないから自分の身は自分で守らないと駄目だぞ。
(俺が〇〇と恋人同士になったら、ずっと側にいて目を光らせておくことも出来るのに……歯痒い)
壁ドン