記憶がなくとも〇〇が〇〇な事に変わりはない。
そう言い聞かせ、他人行儀に"竈門君"と呼ばれる度に痛む胸を鎮めてきた。

落下直前の事以外は時間の経過と共に思い出していくのに、俺のことはまだ駄目なのか……と俯きたくなる心を何度も叱咤した。

おはよう〇〇!

(た……じ、ろ。炭治郎!!)

自身より小さな影が飛び付いてくる。
小さな声で彼女の名を呼ぶとなあに?と涙を浮かべながら返ってくる。

記憶、戻ったんだな!?おかえり……!

記憶が戻っても戻らなくても、としのぶさんの前では言ったものの毎日心が痛かった。
名前を呼んでも反応が薄い彼女の背中に抱きついて、好きだと伝えたくなった。

(私が記憶を失くしてる間も炭治郎はずっと傍に居てくれたね、ありがとう)

あまりにも〇〇の笑顔が眩しくて、気が付けば俺も涙を流していた。
ただいまとおかえり