義勇の部屋を訪ね来たしのぶがあら。と声を発すると膝枕をしている〇〇が目を細め、頭を垂れた。
僅かに揺れた膝に義勇が唸ると、焦った素振りをする彼女にしのぶは人差し指を唇に当てる。

我に返り静止した〇〇の上で寝返りをうった義勇は、しのぶに寝顔は見せないと言わんばかりに彼女の腹部に顔を向けてしまう。

(急ぎの御用でしょうか?)

丸くなった背中を規則正しく叩く〇〇の姿は母か──或いは恋人か。
分かりきった事を自問して、どうなると弾き出す前から分かりきっている答に首を振る。
そうですか……と紡いだ〇〇は心底よかったと思っているようで、空いた手で首元に掛かった髪を退けている瞳は慈愛に満ちている。

邪魔者は退散しますね。ゆっくりなさって下さい。

(え?待ってくだ……)

……どこか、いくのか。

戸を隔てた向こう側から聞こえてきたのは芯のない、寝起き特有の低く掠れた声。
〇〇は中途半端に意識が浮上した義勇を優しい声で宥め、再び夢の世界へ誘うのだろう。

それなら、いい。

義勇が彼女に惚れているのは誰から見ても明白だ。
しかし当人はそれに蓋をして、涼しい顔をしているのだから時折〇〇に愛想を尽かされないかと心配していたのだが……全て杞憂だったようだ。

後ろから上がった〇〇の悲鳴の理由は当人から後日聞けばいいと、しのぶは水柱の部屋を忍び足で後にした。
これは結婚してますわ……