切迫した隠の声に反応し、机から顔を上げた。
月は薄くなり、もう間もなく夜が空けようとしている時刻だった。

隠に背負われていた人物の隊服を掴むと真っ赤な鮮血がしのぶの手を汚した。
黒の隊服すら染めあげて尚、床に滴っている出血量の多さに血の気が引いていく。


ここが何処か分かりますか?一体何が──

(……あの子は、母親は……無事でしたか?)

焦点の合っていない瞳をさ迷わせながら、誰にでもなく問いかける。
やっとしのぶを捉えた少女は、彼女から返事を聞くことなくゆっくり瞳を閉じた。
「胡蝶様!」