(あぁ、いやになっちゃうなぁ……。)
ゴポッ、と、もうどこから出血しているのかも分からない血が呼吸をする度に肺の中で泡立つ音がする。
呼吸で止血をした方がいいことは分かっているけど、もう止血をしたところで死ぬまでの時間が少し伸びるだけだということも分かっていた。
幸い、鬼の首を切れていたということだけが救いだ。
(しはん、怒るだろうなぁ、)
継子なのに、こんなにみっともなくて申し訳がない。きっと、師範ならもっと上手く倒せてたんだろう。最初に判断を誤って足をやられてしまったのが運の尽きだった。
ろくに攻撃も避けられず、左肩も怪我し、なんとか自分を囮にして首を狩ったのだ。
力も入らずちゃんと刀も握れていなかったけど、辛うじて怪我をしていない右手に刀を縛り付けて鬼の首をはねた。
無意識で出来る程度まで、高速移動の筋肉の動かし方を叩き込まれていたのも良かったのかもしれない。師範のお陰だなぁ。
気が付くと私の鴉は見当たらなかった。きっと、師範の所に向かったのだろう。師範の任地と此処はそこまで離れてないから、私が死ぬまでに来てくれるといいのだけど。
(私は、何も残せずに死ぬのか。)
思えば、私は与えられてばかりだった気がする。帰る場所を無くし、育手に拾われ鬼殺隊に入ったものの、階級も上がらず怪我をしてばかりだった。
怪我は痛いし苦しいことばかりだけど、居場所を与えてくれたお館様と育手に恩返しをしたくて、私みたいな人を減らしたくて、その一心で鬼殺隊を続けてきた。
そんな私を見かねてか、しのぶさんは私に師範を紹介してくれて、師範は継子にしてくださった。
継子になったばかりの頃は身体の使い方も呼吸の使い方もまだまだで、師範を呆れさせたこともあったけど、やっと見れる程度にはなってきて、これからもっと人の役に立てると思ってたのに。
本当、与えられてばかりの人生だった。
育手に拾われなければ、きっと両親の死体と共に腐って道端のゴミになっていた。お陰で私はまた立ち上がれたし、戦う術も身に付けられた。両親を弔ってあげることも出来た。
鬼殺隊に入ったことで、私にも人助けが出来た。「ありがとう。」と言われることが、何よりの喜びだった。救えなかった命も多かったけど、救えた命だってあった。
怪我ばかりして帰る私を、しのぶさんは案じてくれた。全集中の呼吸・常中を教えてくれて、親身に話を聞いてくれた。蝶屋敷の皆も私と親しくしてくれて、また私に家族が出来た気がした。
師範を紹介してくれて、師範は私を継子にしてくれた。
師範は、しはんは………、
私のすべてだった。
色々あり過ぎて、色々な感情を抱きすぎて考えが纏まらない。私の世界に色を与えてくれた。人の為、その一心でなんとか生きてた私に、夢を与えてくれた。
もっと、もっと早く強くなれていたら、いつか師範と同じ目線で肩を並べて戦えていたのかなぁ。
もう少しだけ、師範の傍で生きていたかった。
みんなに、恩を返したかった。
もう、身体の冷たさも分からなくなってきた。
指先はとうに冷えきって、視界もぼんやりと滲んできた。あんなに苦しくて痛かったのに、もう何も感じない。
(まだ、あと少し、)
あの人の顔を見るまでは、死ぬ訳にはいけない。
約束したから。師範が来るまでは生きてるって。
きっと師範は優しいから、私が死んだら悲しんでくれるだろう。私が死ぬことは、少なからず彼の重荷になる。
……だから、最後の言葉だけは、何としても伝えたかった。
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