(任務が終わりお屋敷まで帰る途中で、見知らぬ2人の男の人に話しかけられた。)
(内容は、良ければ一緒にお茶でもどう?という在り来りな誘いだった。)
(この後予定もあるので……、と断ったが聞き入れてもらえず、いいじゃんいいじゃんと帰り道も塞がれる。)
(一般人に手を上げるのも憚られ、困惑して黙っていると、その沈黙を肯定と受け取ったのか男の手が私の腰に回った。)
(あと少しで路地裏に連れ込まれそうになったところで、私の背後から肌を突き刺すような殺気を感じる。)
(振り返らなくても分かる。)
(あぁ、この息を飲むような殺気の出処は、)
……ねぇ。その子に何か用?
(声をかけられたことに驚いた男達はバッと後ろを振り返り、師範の姿を見て安堵する。)
「なんだ、女か。」
「おい、こいつも可愛い顔してるじゃねぇか。」
(ケタケタと笑うこの人達は、この恐ろしい程冷たい殺気に気が付かないのだろうか。)
(なんて間抜けな人達なんだろう。)
(私でも、恐ろしくて振り向くことすら出来ないのに。)
(師範はそれ以上言葉を発さず、静かにこちらに近付いてくる。)
(それをついて来たと勘違いしたのか、男達は汚い手を師範にも伸ばした。)
「お前もかわいがって、〜〜〜〜ッッ!?!??」
(瞬きする間に、1人の男が地面に転がった。)
(腕を捻られたらしく、呻きながら地面をのたうち回る姿は酷く滑稽に見えた。)
「なんだてめぇ! ッ!?!」
(もう1人の男が臨戦態勢になるも遅く、距離を詰めた師範にいとも簡単に地面に転がされる。)
……、口答えとかはいいからさ。
早くそいつを連れて、僕達の前から消えてくれる?
(有無を言わさない問いかけに男は小さく悲鳴を上げると、腕を押さえたまま身動きが取れないもう1人の男を引きずって、私達の視界から姿を消した。)
(男達がいなくなった後も師範から出る殺気は消えなくて、私は動けずにいた。)
(沈黙が続き、気まずさに声を出そうとするも、喉から出るのは音にならない呼吸のみ。)
………ねぇ、早く帰るよ。
(そう言い残し踵を返して歩き出した師範の後を、私は弾かれたようについて行った。)
し、しはん、あの、助けてくださってありがとうございます… ※閲覧注意