(あれ、私、いつの間に寝たんだろう……)

気が付くと、真っ白な空間に佇んでいた。
何も無い、只々白く果てのない空間。

(確か、私は先程まで師範とお喋りを……)

朧気ながら記憶では、つい先程まで師範と縁側で話をしていたはずだ。
ともすれば、これは夢なのだろう。
うたた寝でもしてしまったのだろうか。

(こんなに師範とお話出来たのは久しぶりだ。)

いい天気だったし、暫く任務にも呼ばれないし。
師範も任務に出ていないみたいだし、2人でゆっくり過ごせるなんていい日だったなぁ。

……、

(任務?)

あれ、と思った瞬間、じんわりと右手に熱を感じた。誰かに握られているような、不思議な感覚。

(何だろう、私はこの手を知ってる気がする。)

見えない何かに掴まれているなんて、普通なら恐怖を感じるはずなのに、何故か私にはそういった感情は全く湧き上がってこなかった。
それどころか、酷く落ち着いてさえいる。

(……師範?)

思い浮かんだその名を口に出すと、私の右手を握った手に力が籠る。引っ張りあげられるような感覚と共に、遠くで音が聞こえ始めた。

「……、……!」

(何だろう、誰かが何かを叫んでる?)
必死に何かを訴えるような、切羽詰まった声。
不明瞭な音は段々と言葉になり——。

「——○○ッ!」

呼ばれてる、起きなきゃ、と思った瞬間、辺りは一瞬で闇に包まれ、握られている感覚が無くなる。落下していくような浮遊感の後、私は意識を失った。




『……ぇ、ねぇ』

☆………