『……ねぇ、』

先程まで私の存在を知らないかのように歩いていた師範は、少し先で立ち止まり、空を指さした。

『……あれ、なんの形だっけ』
(? どの雲ですか?)
『どこかで見たことあるんだよなぁ。あ、あれは何の花だっけ。』
(この花は白詰草ですよ。)
『へぇ。……ねぇ、あれはなんの鳥だっけ。』

目に付いたものを指差してフラフラと歩く師範を見ていると、いつもの師範には感じたことのない感情が芽生える。

(楽しいですね、師範。)

返事は無かったが、それでもいいような気がした。

☆(静かに後ろをついていく)