そう、私が彼にしてあげることなんて何もないのだから…
今の私には四肢が無い。
姉の仇でもある上弦の鬼との戦いで私は手足を失った。
勝てたことが奇跡とも言える戦いだったがなんとか姉さんの仇を打つことができた、ただその代償は安いものではなかった。
私は手足を…●●も臓器、特に肺を酷くやられてしまい、二度と全集中の呼吸を使えなくなってしまった。
戦えなくなった剣士は足手まといになるだけ…私達は剣士を引退し蝶屋敷から少し離れた家で一緒に暮らし始めた。
カナヲやアオイ達からは引き留められたが、あの子達にまで迷惑をかけたくなかった…それは彼も同じ気持ちだった、もう剣士でもない私達があの子達の手を借りるわけにはいかない。
元々彼とは姉さんの仇を打てば結婚しようと約束していたし、ご近所には新婚の夫婦と名乗ったので…ある意味では予定通りだったともいえる。
そう言えばまだ籍を入れていなかった…いつ結婚式をするかも決まっていないし、彼に相談しなくては
結婚…してもいいのだろうか、私は今以上に彼を縛ってもいいのだろうか…
手の無い左腕で顔を覆う、泣いている訳じゃない…涙が出たわけでもない
結婚して…夫婦になって、それはきっと幸せなことだと分かっている、ずっとそれを夢見ていた…でも、今の私では彼に何もしてあげられない
一生、私が死ぬまで彼に迷惑をかけ続ける…
こんな体の私なんて居ない方が彼は自由に生きていけるのに…
死にたいわけではない…だって私の命は私の物じゃない…彼が命を懸けて救ってくれた命だから、私に選択権はない。
私の命は彼の為にある、私に生きて欲しいという彼の願いの為に私は生き続けなければいけないんだ…
なにを悲観的になっているんだろう、私は生きている、彼も生きている、姉さんの仇も取った…充分じゃないか、これ以上ないくらい…充分願いは叶ったのに…
朝食の支度ができたと呼びに来た●●君は私の様子を見ると何も言わずに抱き上げ、包み込んでくれた
しのぶ:●●君…ありがとう
私には幸せになる権利があるのか分からない…でも、彼の腕の中でその温もりに触れている間だけは、これが私の幸せなんだと感じた。
幸福の代償