(嫌なものを見た…しのぶが男に求婚されていた)
(それ自体は珍しいことじゃない。しのぶは俺が知っている女性の中で一番の美人だ、モテない方がおかしい…問題は相手だ)
(藤の花の家紋の家で何度か会ったことがある、どこぞの資産家らしい…甘ちょろい性格だったが悪い奴ではなかった、今までにも何度かしのぶと一緒にいるところを見たことがある)
(アレは俺と同じだ…しのぶに心底惚れてる)
(色恋沙汰には疎いがそれくらいは分かってた…)
(しのぶはたぶん断るだろう…カナエさんの仇を討つまで普通の生活に戻る気はないはずだから)
(普通の生活か…)
(あいつは復讐が終わったらと言っていた…俺とは見ているものが違う)
(しのぶはカナエさんの仇を討つこと、俺は柱になってしのぶを守ること。それを目標に今まで生きてきた…仇を討ち無惨を倒した後のことなんて考えたこともなかった…)
(鬼殺隊以外の生き方なんて知らない…鬼と戦う以外の生き方なんて想像もできない…)
(俺は情けない男だ、俺はしのぶに相応しい男じゃない)
(そんなことはずっと前から分かっていた…分かり切っていた、分かっていたが目を背けていた)
(ここらがいい頃合いなのかもしれない…二人にとって曖昧な関係を終わらせるには…)
(そんなことを考えながらあてどもなく歩いていた。気が付くと人里離れた場所にあるお堂に足が向いていた…ここは初めてしのぶと一緒に任務で鬼を倒した場所だ)
(なんでこんなところに…こんなに女々しかったのか俺は……無意識に過去を追い求めていたのか…)
(ふと、お堂に目を向けると誰かが腰かけていた…あれは)
しのぶ:思ったより遅かったですね。
思わず顔をそむけ、しのぶに背を向けた
しのぶ:まだ怒ってるんですか?昼間の件ならお断りしましたよ、面倒な人の面倒を見ないといけないからと これ誰のことか分りますよね? もしもーし?聞いてますか?無視ですか?
貴方はいつからそんな冨岡さんみたいになったんですか
(無視したくてしてるわけじゃない、ただ今の顔を見られたくない、今の声を聴いて欲しくない。こんな情けない顔見られたくない…)
(逃げるようにその場を離れようとするとふいに後ろから抱きしめられた)
離してくれ
しのぶ:離しません
頼む
しのぶ:お断りします…●●君、なにがそんなに嫌なんですか?
嫌なことなんてない、あってもしのぶには関係ない
しのぶ:なら、私が他の男性とお付き合いしても…貴方はそうやって目を背けるんですか
そうだ……俺には関係ない
しのぶ:じゃあ…なんでそんな涙声なんですか?嫌ならちゃんと嫌って言ってください…嘘なんてつかないでください
嘘なんてついていない、嫌なことなんて何もない…(また嘘をついた、そんなこと微塵にも思っていないのに…)
しのぶ:…そうですか、そうやって意地を張るというのなら私も好きにさせてもらいます。
しのぶは腕を緩めると俺の前にまわり、今度は前から頸に手を回され唇を奪われた
しのぶ:これが私の気持ちです、これでも関係ありませんか?貴方に拒絶されようとも関係ありません、私には貴方が必要なんです。
…貴方の悪い癖です、一度落ち込んだらとことん悪いことを考えて一人で溜め込んでします。
いい機会です、思ってること全部吐き出してください…言ってくれるまで絶対に離しません。
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