(ペン先のインクを拭き取り、書類を乾かすため少し時間を置くことにする)
(今後の戦略を練らなければならないのに、頭に浮かぶのは彼女のことばかりだ)
(昼間の騒動は完全に僕が悪い。彼女には何の非も無い)
(いくら中身の無い会議に付き合わされ疲弊していたからといって、彼女に当たる道理も権限もどこにもなかったというのに)
(思い通りにならないと人を操り悪い方向へ導くのは僕の悪癖だ)
(それをよりによって立場の危うくなっている彼女へ向けたのはどうかしていた)
(せっかく対等に話せる相手と巡り合い、結婚まで出来たというのに)
(彼女自身は、そうは思ってはいないだろうけれど)
……そんなところで突っ立ってないで、入ってきたらどうだい?
(扉の向こう側にいる者に声をかけると小さく悲鳴を上げられる)
(いつまで経っても入ってこなかったのは自分だというのに、声をかけただけで怯えるなんてふざけているじゃないか)
(遠慮がちに開けられた扉から、醜い性格の持ち主が顔を覗かせた)
…呼ばれた理由は分かっているだろう。
一度は主の息子である僕に嘘をついたんだ。今回は素直に答えてくれるよね。
君の知っている者たちのような末路になりたくないだろう。
(怯えきった目に、自分の背筋がぞくりと震えるのを感じた)
→