(ラピスの家に嫁いで三ヶ月、未だ屋敷の大多数の者とは馴染めないでいた)
(余所者というだけではなく、対等なお妃候補を差し置いて昔交わした許嫁という身分の低い自分と結婚したという事実が、失望と嫉妬と疑念という負の感情を生み出していた)
(もちろんそれは強者であり主であるラピスではなく、弱者であり他人の私に向けられる)
(直接何か言ってくるのならまだいい。彼らは思わぬところで罠を張る)
(しかしこれほどまでに残酷な仕打ちを受けなければならないほどの罪を、私は犯したのだろうか)
ラピス:…いいかい。もう一度聞くよ。
"これ"を壊したのは君かい?
(椅子に深く座り頬杖をついた彼の氷点下まで冷え切った視線がこちらに向いている)
(向いているのが分かっているからこそ、彼と目を合わせられない。合わせたくない)
(代わりに従者の持っている紅色の欠片に目を向ける)
("これ"とは彼のお母様の形見である珊瑚の髪飾りだ)
(今は無残にも砕け散り原型をとどめていないが、本来の姿であればかなり高価なものだっただろうことが、装飾品にあまり興味の無い自分でも分かる)
(そうでなくとも形見なのだ。彼にとってはその物の市場価値など関係ない)
(一度唇を噛み締めてから「いいえ」と答える)
(緊張する場面はこれまで幾度となくあったが、従者の冷ややかな視線、そして濡れ衣を着せられているという事実に想像よりも声が出ない)
(彼は次の手があると言わんばかりに頬杖の腕を変え、次の尋問へと移る)
(その形のよい唇は微笑みを崩さないが、目元はだんだんと厳しくなっているようにも見える)
→◇
ゴーストの語りまで飛ぶ◇
ラピスの語りまで飛ぶ◆
フォスルートへ飛ぶ※BAD END要素あり…家出後。