『ーー海外勢の高いブロックを相手に、高いスパイク決定率を叩き出した牛島選手ですが。その背後では敵ブロックを見事に欺き、スパイカーに尽力して牛島選手の道を切り開いた優秀なセッター。まさに本日の主役、及川徹選手にインタビューしたいと思います!!
及川選手、ベストセッター賞おめでとうございます!!』
『ありがとうございま〜す』
高層マンション上階の一室。
電気は全て消されていて、辺りを一望できると売りの大きな窓も、今は役目を果たすことなくカーテンによって遮られている。
真っ暗な室内はテレビの液晶から放たれるチカチカとした光だけが辺りを照らしていた。
テレビの中では若い女性キャスターがマイクを傾けながら『本日の主役』とうたっていた選手に矢継ぎ早に質問を投げかけている。
バレーボールという競技において日本を代表するチームの要でありセッターというポジションに位置する彼
その選手ーー『及川徹』とは、私の夫だ。
学生時代から気づけば早数年。どんな時でも相手の存在が常にあって至極当然のように交際から結婚まで進展していった。離れた事はないし離れる気もない。互いに大切な存在で代わりはいない。
優しくて……温かくて、いつも味方でいてくれる。ふざけたり、時々喧嘩もしたけど最後には笑いあって楽しい時間を共有する。
…そんな彼が大好きだった。
でも、
いつからだろうか、頭を撫でてくれる手が怖くなったのは。
話す言葉が冷めたように聞こえるのは。
見つめてくれる目が、監視しているのだと感じるようになったのは。
交友関係や仕事に口を出されるようになって行く先々の報告や連絡が必要になり、やがて何をするにも疑われるようになったのは。
そして
部屋から出してもらえなくなったのは扉が開く音と足音が…