((...んっ...))
豹那「宵の月 上弦で
酸いに乗せるは神楽遠き夢
愛らしい子らよ まなこを閉ざしたりて___」
((...三味線と...子守唄...。
豹那...?))
豹那「...お起きですか、お姉様。
こんなところで寝てはいけませんよ」
((三味線を抱えて私を見つめる豹那。
私の肩には、大きな黒いジャケット。
...歯みがき粉っぽい煙草の匂い...。
豹羅のだわ))
豹那「お姉様、何か夢でも?
穏やかかと思えば...突然表情をしかめたりしておられましたが?」
((...豹那...。
意図はなく、豹那の頬に手を添えた。
うっすら隈が出来ていて、でも肌は滑らか。
桜色の唇は、私が何か言うまで待つのだろうか、つぐまれている。
あれから、十一年が経った。
永かった。
苦難にぶち当たって。
涙を流すくらい悲しい別れもあった。
飛び上がるほど嬉しいこともあった。
憤る出来事もあった。
それでも、この子は生き抜いた。
学園の地下に繋がれていた虎幸達を解放して。
学園から連れ去ろうとした豹羅を説き伏せて。
今ではそれなりに幸せな暮らしをしている。
...豹那は、小さい頃はかわいかったけど...美人になったわね。
お父様に、よく似ている...。
この目が特に...。
なんて、言ったら。
この子は嫌がるか))
豹那「...お姉様。
月をご覧ください。
美しい上弦の月です」
((...えぇ、そうね。
この月は、すべてを知っている。
全部見ている。
私は嘘を押し隠すように豹那を抱き締めた))
___END___
●●__宵の__