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……こほん。
ねぇ、先輩。最初に私たちが会った日のこと、覚えてますか?
あの時は私、あなたのことを怪しげな不審者だーって通報しようとしましたよね。
だって見るからに挙動不審で、なーんかショボショボっていうか、怪しいというか……それが私の先輩だって気づいたときは、ぶっちゃけ大丈夫かなって……そう思ったんです。
もうその予感は的中!最初は私たち、全然ダメでしたよね。
何をやったって上手くいかなくて、二人の息もてんでバラバラで…………先輩の一言一言が妙にイラついたというか、やっぱりこんな人が先輩なんてとんだ貧乏くじだわっ!なーんて……ふふっ、昔の話ですよ。昔の話っ。
……でも、先輩はいつもまっすぐな目で私を見てくれてて、それがなんとなく心地よかったのは本当なんです。
家のこと関係なしに私のことを見てくれて、評価してくれて、叱ってくれる大人……初めてだったから。
先輩のおかげで、私にとって掛け替えのない友達もたくさん出来ました。
コイツらとは蹴落とし蹴落とされるだけの関係。どうせ最後は敵になるぐらいなら、最初から上辺だけの仲良しごっこなんかする気はない。そんな風に思ってたはずなのに…………
先輩、言ってくれましたよね?この娘たちは敵じゃなくて、お前の仲間なんだって…………うーん、今考えるとちょっと臭くありませーん?あははははっ♪
……でも、本当にそうだったんです。皆は何度も私に手を差し伸べてくれてたのに、私がそれを拒絶しちゃってただけ。ある日、勇気を出して手を取り返して見たら…………そこからはもう、知ってますよね?
ほーんと甘々でウザくてベッタベタで……それでも、初めて出来た私の居場所。それも先輩のおかげなんだって、そう思ってるんです。
……初めて自覚したのは、ちょうど髪型を変えた頃だったかな。
なんだか先輩……アンタを見てると、胸がギュッて締め付けられるみたいになって、それがすっごく苦しくて、それなのにずっと側にいたくて……だから私、ことあるごとにアンタと一緒にいようとしたわ。
アンタは私の騎士なんだから、オフだろうが側にいなくちゃダメでしょ……ってね。
クリスマスのときのこと、覚えてるでしょ?
アンタから素敵なプレゼントを貰って、私はネクタイをあげて……そのネクタイ、アンタその場で着けて事務所に戻ったじゃない?あの後、皆に冷やかされて大変だったんだから!
……顔だけじゃなくて、心もポカポカしてたのをよく覚えてるわ。
Bランクに上がったときのフェスは、今までのアイドル活動のなかでもトップクラスにしんどかったわね。
だって本番前にメンタルがぐちゃぐちゃになっちゃったんだもん。ぶっちゃけもう一人前のアイドルぐらいに思ってたんだけど……考えが甘かったわ。
もう吐きそうで泣きそうで、今にも逃げ出したいぐらいに足がガクガク震えちゃってね。
でもアンタは、そんな私のことを見捨てないで支えてくれたわ。そして昇進が決まった瞬間、もうこっちがドン引きするぐらい号泣して……ふふっ、泣き虫なのは今日も変わってなかったけどねー♪
バレンタインデーは……うん、このときかな。もうこの気持ちから逃げられないって思ったのは。
想いをありったけ込めたチョコレート。それが粉々になっても、アンタは美味しい美味しいって笑顔で食べてくれた。気を使ったような態度じゃなくて、ほんとに自然にね。
あの時のアンタを思い出すと……今でも胸がきゅってしちゃうの。今この瞬間も……心臓がバクバクしてて…………
……でも、ホワイトデーの日に思ったの。この感情は、やっぱりいけないものなんだって。
今日もそうよ。ファンの皆は、あんなに私のことを愛してくれてる。まっすぐな目で、まっすぐな気持ちで、まっすぐな想いで、私を応援してくれてるの。
それなのに、それを皆に倍返ししなくちゃいけない立場の私が……こんな風に一人のことだけを思っちゃうなんて、やっぱりよくないわよ。
……だって私、アイドルだもん。
だから、水瀬家の誕生日パーティーが終わったあとに決めたの。この想いは心の奥底に大切にしまっておいて、もう二度と取り出さないって。
大富社長から助けてくれたときのアンタを、心の底から…………って、思っちゃったことは……やっぱり…………ダメなことだから…………
アンタは騎士として……大人として助けてくれただけなのに……何を舞い上がっちゃってるんだろって…………だ、だからっ!!
だから、今日のこれで、この想いもぜーんぶ終わり。アンタはプロデューサーで、私はアイドルで。もうそれ以外はなんにもなし。
お互いがお互いを信用できる、頼れるパートナー。二人の関係は、それ以上でもそれ以下でもないってわけ。
でも、そのためには儀式が必要だと思わない?
これからもステージで輝くために。
これからも堂々とスポットライトを浴びるために。
これからも全力でアイドルをやるために。
今からやるのは、私なりのケジメよ。
受け取らなくていい。ただそこに立って聞いてくれてるだけでいい。
私のワガママ……きいてちょうだい。
ねぇ、プロデューサー。
アンタの優しい笑顔が好き。
アンタの私のために一生懸命なところが好き。
アンタの柔らかい声が好き。
アンタの逞しくて頼れる背中が好き。
アンタの仲間想いなところが好き。
アンタの優しく撫でてくれる手が好き。
アンタのちょっと男くさくて安心できる匂いが好き。
アンタの私のことで泣いてくれるところが好き。
アンタの私のことで喜んでくれるところが好き。
そんなアンタの……全部が、全部が大好き。
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