……も、もうっ!大富社長ったら!楽しんでくださってるのは嬉しいですけど、ちょっと酔いすぎですよ?大富社長には、きっと私みたいな小娘より相応しいお相手がいますからぁ♪
あ、エンペラーレコードの方ですか?すみません……社長、ちょっと飲み過ぎてしまったようで…………申し訳ありませんが、あちらで介抱してあげてください。うふふっ、お楽しみいただけたようで良かったわぁ♪
それじゃ、大富社長。またの機会に……ごきげんよう♪
……あーあ、疲れた疲れた。なによ、あのセクハラオヤジ。聞きしに勝る酒グセの悪さだわ。どんなに大物でも、パーティーであんな狼藉を働くようじゃ三流以下ね。ふんっ!
はぁ?なんでアンタが謝ってんのよ。悪いのは全部、あの変態オヤジでしょ?それに、あんなヤツでも業界では超有力者だし…………ウチみたいなポッと出の事務所のショボショボプロデューサーが何か出来る相手じゃないの。思い上がらないでちょうだい。
むしろ英断を褒めてやりたいぐらいよ。あそこで私に任せてくれたから、これぐらいの被害で済んだわけ。さすがはアンタも、プロデューサーの端くれよね♪
ふふんっ!そんな心配しなくたって、セクハラはアンタで慣れてるもの。あれぐらいのことで私が…………そ、そんなに傷つくわけ…………ないじゃない…………っ。

ご、ごめんっ!ちょっと……お花摘んでくるから…………じゃ、じゃあね!!
お待たせ。なーんかお手洗いが混んでてね。ちょっと時間がかかっちゃったわ。ついでに少しだけお化粧し直してもらってきたの。どう?似合うでしょー?
……さっ!仕切り直しよ。楽しいパーティーはまだまだ続くんだから、アンタもせいぜい楽しんでちょうだい。
じ・つ・はぁ!この後アンタにも秘密の、とっておきのサプライズが待ってるんだから♪にひひっ♪
【伊織はそう笑って背を向けると、間もなく壇上でサプライズのパフォーマンスを披露してくれた。おそらく新堂さんと事前に打ち合わせをしてたんだろう。】
【売れっ子アイドルの全力パフォーマンスに会場は大盛り上がり。一流の来賓者たちは、伊織の一流のパフォーマンスに酔いしれて骨抜きにされていた。】
【だから、多分気づいたのは俺だけだったと思う。何かを隠すような、普段より少しだけ厚い化粧。ぴったりと張り付いたお面のような、上辺だけの笑顔。感情をムリヤリ上塗りしたような、妙に明るい歌声。それでも十分に素晴らしいパフォーマンスだったが……本来の伊織のものとはまるで違っていた。】
【さすがはプロデューサーの端くれ、か。確かにプロデューサーとしては正解だったかもしれないけど……伊織の騎士として、果たして今日の俺は相応しい行動が取れていたんだろうか。】
【目の前で偶像を演じる水瀬伊織のことを、俺は一端のプロデューサーを気取って、ただその場に立ち尽くして眺めるしか出来なかった。役立たずの騎士には、きっとお似合いの姿だったに違いない。】
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