歌は……言ってしまえば私の全て、だったんだと思います。
小さい頃に弟に喜んでもらえたのが嬉しくて……それ以来、私なりに歌に全てを注いできました。
歌の勉強はもちろん、技量を高めるためのボイストレーニングや筋力トレーニング……おかげで中学の頃には民謡とロックで日本一になりました。まぁ、所詮はアマチュアレベルですけどね。
でもそのなかで、童謡だけは地区大会優勝どまりだったんです。
思い上がりではなく、客観的に見て私のレベルは日本一をとった人に引け劣らなかったはず。
当時はその結果を、審査員の好みぐらいに考えていましたが……今思えば、私とその人には雲泥の差がありました。
温かさは甘えを招く。温かさは成長を妨げる。真剣に取り組んでいれば、歌ってる途中にヘラヘラ笑う余裕なんかないはずだ。そう思い込んで、ただ技術のみで歌っていた私……あのときは童謡を聞いてくれる子供たちのことなんて、まるで考えていませんでしたから。
知らず知らずの間に私は、大好きな歌を自己満足の道具に使ってしまっていたんです。歌を好きになった理由も、歌う喜びも、歌を聴かせたかった相手も……いつの間にか忘れていました。
……そんな私に、歌を思い出させてくれたのが……プロデューサー、アナタなんです。
もちろん技術や知識は必要です。でも、そもそも歌ってもっと楽しくて自由なものなんだって……アナタのプロデュースを受けて、私は大切なことを思い出すことができました。
今でも歌は掛け替えのないものですが、もう歌以外は何もない如月千早はいません。今の私には歌と同じぐらい……それ以上に大切な仲間たちが、側にいてくれますから。
……なんだかつまらない昔話をしてしまいましたね。すみません、プロデューサー。お詫びに何か飲み物でも…………え?歌、ですか……?
……そうですね。それでは…………こほん。
いち、に、さん、し、ご、ろく、なな……かぞえるだけで、歌になる~♪
こ~え~を~あ~わ~せ~て~、あなたの声が、歌になる~♪
ふぅ……どうでしたか?ウォーミングアップもせず歌ったので、とてもクオリティーが高いとは言えない出来だったと思いますが。
……そうですか。良い笑顔で歌えてましたか…………ふふっ♪
歌【如月千早】