【ある売れる前の事務所の風景】
あー、もうっ!むかつくむかつく、むかつく~~~っ!!
ちょっと、美希っ!アイツ、いったいなんなの!?この伊織ちゃんに向かって、いくらなんでも無礼すぎるでしょ!アイツっ!!
美希「あふぅ……でこちゃーん。そんなに怒ってばっかりだと、おっぱい大きくならないよ?っていうか、さっきから誰に怒ってるの?」
きーーーっ!余計なお世話よ!!しかも誰にって……そんなの、アイツに決まってんでしょ!?
真よっ!真っ!菊地真っ!!アイツ、いったいなんなの!?いったい何様のつもりなわけ!?
美希「真クン?あはっ☆だったら王子様なの。その辺の男の子よりずっとカッコいいし……ミキ、すっかりファンになっちゃった♪」
ふんっ。センスないわね、アンタっ。あんなのちょっと顔が良いだけのスカポンタンよ!それを王子様って……はーっ!ばーっかじゃないの!?
美希「ご機嫌ナナメだねー。もしかして真クンと喧嘩した?」
喧嘩ぁ!?このセレブで高貴な私が、あんなガサツな野蛮人と喧嘩なんかするけないでしょ!
ただボーカルレッスンやダンスレッスンで息が合わなくて言い合いになったり、すっとろい雪歩に文句言ったらアイツが突っ掛かってきて言い合いになったり……それだけよ!私が一方的に絡まれてるのっ!!
美希「一方的に絡まれてるのに、言い合いになるの?」
なるのよっ!文句あんの!?あー、もうっ!ほんっっっとムカつくっ!えい、えいっ!!
ゲシッ ゲシッ ゲシッ
美希「あ、壁蹴っちゃダメなんだーっ。律子……さんに怒られちゃうよ?」
ぐっ……ちょ、ちょっと!プロデューサー!いるんでしょ!?壁がダメならアンタを代わりに……プロデューサー!プロデューサーってばぁ!!
ガチャッ
あ、プロデューサー!いったいどこ行ってた……って、ちょっと!アンタ、なんでそんなボロボロになってんの!?
真「……ごめん……実は…………」オズッ
美希「真クン!?どうしたの、その顔!ほっぺのここのとこ、赤くなってるよ!?」
真「わわっ!?だ、大丈夫っ!ちょっと手が当たっただけで……こんなの全然…………」
全然……じゃ、ないでしょ!まさかアンタたち、外で喧嘩でもしてきたんじゃないでしょうね!?あー、やだやだっ。これだから野蛮人どもは……
真「違うっ!喧嘩なんて……誰があんなヤツらと喧嘩なんてするもんかっ!!」
は?
……なるほどね。つまり、駅前で路上パフォーマンスしてたら、いきなりラッパー集団に絡まれたってわけ?
真「うん……多分あそこ、あの人たちのナワバリだったんだと思う。そこにボクが断りなしに来たから、きっと頭にキて…………」
美希「むぅ、なにそれ。別に駅前って、その人達だけのものじゃなくない?ミキ、いつも行ってる公園のベンチにお婆ちゃんが座ってても怒ったりしないよっ!」
ふんっ。それにしてもプロデューサー、アンタも災難だったわねー。きっとソイツら、アンタらが男2人組だと思ったからイチャモンつけてきたのよ。
仮に私が一緒だったら、この美貌でソイツらをテロンテロンにして終わりなのに、よりにもよって一緒にいたのがコイツだから……はー、かわいそっ。
真「……っ…………!」キッ
な、なによ。事実じゃない。なんか文句あるわけ?
真「……いや、伊織の言うとおりだよ。ボクがもっと……こんな見た目じゃなくて、伊織みたいな可愛い女の子だったら…………こんなことになんか……絶対…………」
は……え、ちょ…………べ、別に私、そんな本気で…………
真「……っ…………ぷ、プロデューサー!今日はすみませんでしたっ!!それじゃボク……あっちで、顔冷やしてくるんで…………っっ…………!」ダッ
美希「あ、真クン!ミキ、看病してあげるの!待ってぇ!!」テテテテテッ
……なによ、アイツ。普段はやたら突っ掛かってくるくせに、なんでこういうときだけ…………
ねぇ、プロデューサー。アイツ、確か空手得意なんでしょ?だったらそんなパッパラパーどもなんて、ケチョンケチョンに……は?絶対にやり返そうとしなかったって…………な、なんでよ!そのせいでアイツ、顔に怪我して……アンタまで、こんなボロボロに…………
……っ…………プロデューサー!なにボサッとしてんのよ!早くアイツのとこ、行ってやりなさい!!
そんなみっともない姿になってまで、アイツの盾になってカッコつけたんでしょ!?どうせカッコつけるなら、最後までカッコつけなさいよねっ!ほら、しっしっ!!
タッタッタッタッタッ
…………………………………………
ポパピプペ……プルルルルッ……プルルルルルッ……ガチャッ。
あ、もしもし?私だけど……うん。あのね?今から……駅前に、黒服を10人から20人ぐらい……うん……うん…………いや、ちょっとね。注意してほしいヤツらがいるのよ。
うん……うん……当たり前じゃない。暴力なんか絶対に御法度よ。ただ、やさーしく、おだやーかに、注意してくれたらいいの。ここはアンタたちだけの場所じゃないのよーって。
……あ、違う違う。心配しないでいいわ。別に私が危害を加えられたとかじゃないから。
ただ、えっと……友達…………のっ!友達の友達の友達の親戚が大変な目にあったらしいの。それだけよ、それだけっ!
【ある日の駅前の風景】

真「えへっ……えへへへへ……っ…………♪」
ったく、気色悪いわねー。そんなニヤニヤしながら歩いてんじゃないわよ。恥ずかしい。
真「だって、この服すっごく可愛いんだもん!でも、本当にいいの?いくら誕生日プレゼントだからって、こんな高そうなもの…………」
だーかーらー、いいってもう百回ぐらい言ってるでしょ?天下のスーパーアイドル相手に変な気遣いするなんて、逆に失礼だわ。気に入った服はとりあえず買う……これがショッピングの醍醐味なんだから、よく覚えておきなさい。
真「へへっ。はーいっ!伊織せーんせっ♪」
ったく……ま、それならガラの悪い連中に絡まれることもないでしょ。今のアンタ、どっからどう見たって女の子だもの。
真「うわ。その話、懐かしいなぁ……そういえばあの人たち、最近この辺で見ないよね。もう音楽、やめちゃったのかな。」
さーねー。実はアイツら、ラッパーじゃなくて只のパッパラパーだったんじゃないのー?
真「ふふっ。なにそれ。でも、安心していいよ!仮にあの人たちが絡んできたとしても、ボクが伊織を守ってあげるからっ。」
あーら、真さま。真さまといえば、てっきり非暴力のお方かと思ってましたわ。
真「もちろん、空手は喧嘩や暴力の道具じゃないからね。でも、友達を守るためなら話は別さ。伊織には絶対に、指一本触れさせたりしないよ!」
ふーん……じゃあ私は四条流でアンタを守ってやろうかしら!圧倒的な力で捩じ伏せて、二度と立ち上がれないぐらいやっつけてやるんだから。
真「あははははっ♪頼もしいなぁ!それじゃ、いざってときは頼みますわよ?伊織王子っ♪」
はいはい。真姫様……ぷっ!あははははっ♪