はぁ、今日のお仕事、無事に上手くいってよかったわ~。タイトなスケジュールでしたけど、プロデューサーさんのおかげでなんとかこなすことができました~。

現場の指示出しから、現場と現場の行き来まで……何から何までお手間をおかけして申し訳ありません。今度、なにかご馳走させてくださいね?



ふふっ……でも、今日は一日プロデューサーさんのことを独占しちゃって、なんだか贅沢な気分です。デビュー仕立ての頃はよくこうして、事務所までおしゃべりしながら帰ってましたよねぇ。

今はプロデューサーさんも毎日大忙しで、なんだかそれも随分昔のような……あら?ここは…………







……プロデューサーさん。この河川敷から見える景色、どう思われます?

ん……そうですよね~。見晴らしも良いですし、風も心地良いですし…………良い場所ですよね。ここ。



でも、ここは……私にとって、残念な風景なんです。



あそこに見える大学は、私が受験して落ちてしまった大学。あそこに見える会社は、私が新卒のときに面接を受けて落ちてしまった会社……ね?残念な風景でしょう?

……強がりに聞えちゃうかもしれないんですが……私、そのときはあまり悔しくなかったんです。

どちらも私の人生に関係ないと思ってましたから。大学も会社も、運命の人を見つけるまでの仮の居場所だからーって。



思い返すと私、ずっとそうやって生きてた気がします。

高校で先輩に告白されてデートに誘われたけど、上手くいかずに帰り道でフラれてしまったときも……あぁ、この人は私の運命の人じゃなかったんだなぁ。じゃあ仕方ないなぁ、って。

短大のときに教習所に通ったけれど、結局仮免すら取れなかったときも……将来は旦那さんに運転してもらえば関係ないわよねぇ、って。

……結局私、目標に向けて一生懸命努力したことってほとんどなかったんです。

失敗したときはいつも、最終的に私は運命の人と出会って幸せに過ごすんだから関係ないんだって考えてましたから。

何回失敗しても懲りずに……アイドルとしてフェスで負けたりオーディションに落ちたときだって、ひょっとしたら…………





そうやって自分の一番の夢を、自分が傷つかないように、いつだって逃げ道に使って…………

……今、気がつきました。一番残念なのは、そういう逃げてばかりの私自身だったんだなって。今やっと、気がつけました。




……それともうひとつ、気がついたことがあります。

私、さっきも言ったとおり、今日の仕事が上手くいってすっごく嬉しかったんです。それから……お恥ずかしい話ですが…………先週のオーディションで落ちてしまったとき、悔しくて家で泣いてしまいました。

何に対しても努力できなかった私が、何の目標も叶えられなかった私が、初めて本気で努力して目標を叶えたいと思ったもの……それが、アイドルなんだって、ようやく気がつけました。



だから、今日からここは残念な風景じゃありません。

ここは私にとって、過去の残念な自分とお別れした素敵な風景……その風景をプロデューサーさんと一緒に見られて、今日は本当によかったです。







ご、ごめんなさい?なんだか私だけ好き放題しゃべってしまって……その……退屈、でしたよね…………?

本当はもっと楽しくおしゃべりする予定だったんですけど……あ、そうだわ!実は昨日の夜、とらたんと一緒に遊んでたら…………あっ……………………



……ふふっ。そうですねぇ。

ここ、見晴らしが良くて、風も心地良くて……素敵な場所、ですよね。
仕事帰りにのんびり散歩する【三浦あずさ】