最初はね?結構戸惑っちゃったのよ。いくらもやし祭りとはいえ、本当にもやししかないなんて大丈夫なのかしら、って。
でも、あの特製ソース……あれをかけたらもう箸が止まらなくて…………やよい、あれってどういう配合なの?もう普通に商品として出せるレベルよ。あのソース。
やよい「んとね、お醤油とー、にんにくとー……あとはナイショ!だって高槻家秘伝の味だもん!」
え~?ケチねぇ……レシピぐらい教えなさいよ。
やよい「あ、でもでもっ!一番大切な隠し味はね……美味しくなぁれ、美味しくなぁれ、っていう愛情だよっ♪……な、なーんちゃって…………えへへ……」テレテレ
はうっ!?や、やよい……いきなり可愛いの止めなさいよ…………こっちだって心の準備ってものが……あ、ティッシュありがと。とりあえず箱ごと置いていってちょうだい。
やよい「え、えと…………ごめんなさい?」
ったく、気をつけなさいよね?
えーと……それでね、この時やよいがお礼を言ってくれたのよ。私と響が手伝ってくれて本当に助かった、毎日来てくれたらいいのに、ってね。
やよい「わ、私!本当にそう思ったんです!伊織ちゃんも響さんもお客さんなのに、いっぱいお手伝いしてくれて……なんだか本当にお姉ちゃんが出来たみたいで、すっごく嬉しくて……でも…………」
それを面白く思わなかったヤツがいたのよね。自分だってお姉ちゃんのために頑張ってるのに、ぽっと出の私たちだけが感謝されたことを…………多分ね、頭ではわかってたと思うのよ。でも、こういうのは……どうしてもね。
やよい「長介……だから浩司のイタズラに我慢できなくて怒っちゃったんだね。いつもは優しい子だから、いきなり頭を叩くなんておかしいなーって思ったんだけど…………」

この時のやよい、すっごくお姉ちゃんって感じだったわよね…………いつもは感じないような迫力があって、正直ちょっとビビっちゃったわ。
やよい「あぅ……や、やっぱり私って長女だから…………弟たちが喧嘩した時とかはいつもこうやって注意してるんだ。あの……ごめんね?嫌なところ見せちゃって。」
う、ううんっ!そんなことないわよっ!そりゃお姉ちゃんだったら、あの場で注意しなくちゃいけないわよねっ!
……どうしよう。やよいにキツめの口調で「ほら、早く謝んなさい。」って怒られたいかも…………こ、これってアイツが私に罵ってくれって言うのと同じことよね?
まさか私って、変態なの……?い、いやいや!そんなわけ……でも…………えぇ……嘘でしょ…………?やよい「あの……伊織ちゃん?」
ひゃうっ!?ご、ごめんなさいっ!ちょっと考え事をしてて…………
やよい「そ、そう?それならいいんだけど……んで、いつもなら私が怒って喧嘩は収まるはずだったんだけど…………長介、この日は逆に私に怒ってきて。自分ばっかり好き勝手アイドルやってる癖にって。」
いつもはプライドを持ってた『お兄ちゃんだから』って言葉、この時はどうしても嫌だったんでしょうね。しかも売り言葉に買い言葉であんなこと言っちゃったことが自分でもショックで、もうワケわかんなくなって……あの場から逃げ出したのよ。
やよい「……私ね?前も言ったけど、家族の生活が少しでも楽になれば、皆が笑ってくれればってアイドルを始めたんだ。なのに、そのアイドルが長介を苦しめてたのかなって思ったら……か、体が動かなくなっちゃって…………ほんとなら、もっと早く追いかけてあげなくちゃいけなかったのに……!私……私…………っ!」グスッ
……バカねぇ。あの時も言ったけど、あんなの本心じゃないに決まってるじゃない。長介はアンタのアイドル活動を心から応援してるし、だからこそ支えてあげたいって思ってるわ。
私もよくあるもの。ついつい感情的になって、心にもないことを口走っちゃうこと。例えば……本気で心配してくれてるプロデューサーに対して、アンタなんか私の活動に関係ないから口を出すな…………とかね。
やよい「うぅ……伊織ちゃあん…………」ギュッ
はいはい、落ち着くまでこうしてていいからね?……
それじゃ、次に進みましょうか。