……んっ!…………んっ!!
……ちっ。察しが悪いわね。そんな風にぼーっと手を突き出してんじゃないわよ。可愛い彼女が手持ちぶさたなんだけど?ほら……んっ!!
ギュッ
はぁ、ほーんとアンタって、何から何まで私がきっかけを作ってやらなくちゃダメなのね。プロデューサーとしても彼氏としても、そんな受け身の姿勢じゃダメダメなんだから。
……だ、だからってがっつけってことじゃないのよ!?そこはあくまで紳士的にっていうか……きょ、今日ちゃんと“待て”が出来たじゃない!ああいう感じで…………
ち、違うもん!私はちゃんと“待て”したからっ!!事実をねじ曲げてんじゃないわよ!!この変態!!ド変態!!変態大人っ!!
まったく……それじゃ、事務所の扉を開けるまではこうしてましょ?それまでのドキドキが、私が仕掛けてあげたトリックってわけ!
だから、しっかり指まで絡めて……そ、そうよ。そう。
ギュウッ
……ふんっ。ま、初ちゅー記念日にあんまりイジめるのも可哀想だし、今日はこれぐらいで勘弁してやるわよ…………優しいのはいつもどおりでしょ?そんな、特別な理由なんて…………
……だって、本当はもうトリートを貰っちゃってるもの。甘くて蕩けるような……初めての…………ふふっ……♪
ん?べっつにー。なーんにも言ってないわよ?あっ!それとも、なに?もっとドぎつ~い、つら~いトリックの方がお望みかしらぁ?……ふふーんっ♪素直でよろしー!
ほら、いつまで駐車場でうだうだしてんのよ。今夜って相当冷えるし、さっさと事務所に行って暖まりましょ?
だってアンタのほっぺ、さっきから真っ赤じゃない。だから早く事務所に……へ?私も真っ赤?……寒いからね。今日は、その……寒いから。うん。
ほ、ほら!わかったらキリキリ歩きなさいっ。こういうときぐらい、男らしくびしっとリードしてみなさいよね?
ったく、ほーんと世話が焼けるんだから…………♪
【そう呟くと伊織は、俺の手をぎゅっと握り返してきた。二人の顔が赤い理由は、寒さだけじゃないと思うけど……今さらそこを指摘するのは野暮ってものだろう。】
【口では早く事務所に……とせっつく伊織だが、その足取りはいつもより少し遅いぐらいだった。しゃなりしゃなりと優雅に、この時間を愛しく噛み締めるように……俺、手汗とかかいてなかったかな。】
【これからもプロデューサーとアイドルとして、彼氏と彼女として、二人で一歩一歩進んでいこう。ワガママ女王と、ショボショボ騎士と……二人で、な。】
【……この心臓の高鳴りは、横にいる彼女も一緒だって信じたい。伊織、これからも……よろしく頼むな!】
パーフェクトコミュニケーション
ある日の恋人たちの風景17