「邪魔だ……退けええぇぇぇぇッ!!」


 ――――その一撃は、ワタシに残った最後の力を打ち砕くに相応しい一撃だった。
 夜の海の果て。満身創痍の艦体カラダに全力の砲撃を浴び、僅かばかりの装甲となけなしの生命力を吹き飛ばされ、ワタシはついに沈没を確信した。
 遠い雨音を聴くような不安定な感覚が現実となり、脳裏にあの冷たい石の感触が蘇った。しかしそれよりも更に冷たい海水が、ワタシを蝕んで行く。

 ああ――――これが、海に沈むということ。知らなかった。こんな感覚は。
 なんて、寂しくて……哀しい。空が遠い。護るべきはずだった、あの空があまりにも遠い。手を伸ばしても、届かない……。

 ――――そう、手を伸ばした。視界いっぱいに広がる夜空に、手を伸ばした。両の腕を戒め縛る鎖は、敵戦艦の砲撃により砕かれていた。掌を見つめ、震える。痛みに、苦しさに、嬉しさに耐え。
 すべての想いを噛み殺し、溢れた分が涙となって黒い海に流れた。

 わたしにもまだ、涙を流す心があった。それが何故だか、堪らなくて。捨てたはずが残っていたモノを大事に、大事に抱き締める。

 忘れてなんかいなかった。忘れたことなんてなかった。海を駆けた日々。晴れ渡った青い空。

 体が波の合間に沈んで行くのが分かる。けれど、もう怖くない。わたしは帰れる。あの場所に。懐かしき磯の香り漂うあの港に。
 腕は鎖から放たれ、空はこんなにも澄んでいる。私は自由なんだ。そう叫びたかった。その分だけ涙が溢れて、また海に消えた。

 ――――そう。叶うなら。
 私は、もう一度……海を……自由に…………駆けて――――――。





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