立ち向かう俺の背に元団長が一言だけ声を掛けていた。
感謝の言葉か、謝罪の言葉か、もうはっきりと覚えていない。
既に意識は牙と爪の壁に向けられていたのだから。
正直、生きた心地がしなかった。
斬った。
噛まれた。
ひっかかれた。
斬った。
斬った。
飛びかかられた。
斬った。
斬った。
斬った。
斬った。
手にした剣が血で固まり鈍器になるまで、繰り返した。
屍の山に恐れを抱いたのか、獣が俺を遠巻きに取り囲む。
いや、あの眼は恐れではない。
むしろ、その視線は敬意。
なるほど。
一斉に飛び掛からないのは、戦士に対する礼儀ということか。
息を整えられるし、あの人たちが逃げる時間も稼げる。
1秒の刻が万の金にも勝る今は、それがありがたい。
だが、これが最期の抵抗だ。
再び剣を握り直し、霞みかかった眼で最期の相手を見据える。
四つ足の獣ではなかった。
剣を構えた……ベオクだった。
夕暮れに被ってよく見えないが、この際なんでもいい。
剣の道、半ばに倒れる男を見送るに相応しい相手であるのならば、なんだっていい。
馬鹿な生き方だったのだから最期くらい格好を付けさせてくれ。
そう女神に祈った