ワユ
「そういえばさ」
脈絡もなく、彼女がそう問い掛けてきたのは、ある日の昼時のことだった。
俺がグレイル傭兵団に入団し、数週間が経ったころの話。
ワユ
「○○って、昔から傭兵やってたって言うけど、クリミア戦役のときはどこで戦ってたの?」
━━━それは。
反射的に答えを返そうとし、言い淀む。
後ろめたいことが有るわけではない。
仮に彼女達と剣を交えていたとしても、それは戦場の常だ。
酒を酌み交わした相手を、翌日の闘いで切り捨てたことだってある。
故に言葉が詰まったのは今の仲間達と戦っていたかもしれない、という気まずさではない。
単に苦い記憶の一端である、というだけだ。
思い出してもそれほど愉快な話ではない。
ワユ
「ふーん、若気のいたりってやつ?
話したくないなら……そうだ
午後からの手合わせであたしが勝ったら話してよ!」
断る……と言ったところで聞き分ける玉ではないだろう。
それに普段から賭け事をして手合わせしているのだから、これだけはダメという手段は通用しない。
なら答えは一つ。
俺は自分の愛用する武器を手に取りながら返事をした。
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