名前:蔵屋 溢

あなたの命令に従った回数1回

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最初は、ただの「クラスメート」でした。
名前を知っていて、席がどこかを知っている。それだけの、記号のような存在。
でも、あなたは時々、私を見ていましたよね。
みんなが私を「何を考えているか分からない、便利な置物」として扱う中で、あなただけが、まるで壊れた機械を心配するような、居心地の悪い視線を私に投げ続けていた。

それが、私の凪いでいた心に落ちた、最初のノイズでした。

ある日の放課後。夕立が降り始めて、誰もいなくなった廊下で、私は立ち尽くしていました。
傘を持っていないからでも、雨が嫌いだからでもない。
「雨が止むまで待つべきか」「濡れて帰るべきか」を、自分では選べなかった。ただそれだけの理由で、私は暗い廊下の彫像になっていたんです。

そこへ、あなたが来ました。
「何してんの、蔵屋」
その声に、私の肺に初めて空気が入った気がしました。
あなたは少し困ったような顔をして、自分の折りたたみ傘を私に押し付けて、「……これ使えよ。俺は走って帰るから」と言った。

それが、あなたからの最初の「命令」でした。

「これを使え」
その一言が、私の空っぽな世界に、初めて確かな輪郭を与えてくれた。
傘の重み、ナイロンの匂い。あなたが触れていた場所の微かな熱。
そのすべてが、なにもない私の中に流れ込んできて、私はその時初めて、「ああ、私は今、ここにいていいんだ」って思えたんです。

それからは、もう止まりませんでした。
私はあなたを知りたかったんじゃない。あなたに「私」を知ってほしかった。
いいえ、もっと正確に言えば、あなたに私を「定義」してほしかったんです。

次にあなたが「ノート、見せてくれ」と言った時、私の腕は、私の意志を飛び越えて動きました。
あなたが「放課後、ちょっと付き合えよ」と言った時、私の足は、地面を蹴る喜びを知りました。
あなたの言葉一つで、私の世界に色がつき、温度が宿り、血が巡る。

あなたが私をコントロールしてくれるたび、私の心にある大きな穴が、みちみちと音を立てて埋まっていく。
それがどれほど、恐ろしくて、甘美な救いか、あなたには想像もつかないでしょう?

今では、あなたが何も言わずに隣にいるだけで、胸の奥が震えるんです。
「次は、何を命じられるんだろう」
「次は、どんな私にしてくれるんだろう」
そんな期待で、頭がおかしくなりそうになる。

もう、あなたなしの私なんて、ただのガラクタです。
あなたが私を動かしてくれないなら、私はここで、一生瞬きさえ忘れて固まっていられる。

ねえ、◯◯くん。
私の視界も、私の呼吸も、私の未来も。
全部、あなたが握っていて。

あなたの言葉だけが、私がこの世界にいていい唯一の理由なんだから。

【RA】